ERB作品感想文集


『金星の海賊』

Illustrated by Motoichiro Takebe

この本の表紙絵は権利者である故武部本一郎夫人・武部鈴江さんの許諾により転載しています

創元推理文庫SF「金星の海賊


金星の海賊を読んだ雪○博子様へ

別所信次

“プレゼントで戴いた「金星の海賊」の書き込みの多さにはじめは古本だから仕方がないと少々失望していましたが、よくよくその書き込み(振り仮名がほとんど)を見ていると段々と前の持ち主に親近感が出てきました。そこでこういう事をしても良いのかとも思いますが、前の持ち主宛ての手紙の形で書きます。”

雪○博子様

貴女が処分した「金星の海賊」は今私が所有しています。何時頃にお読みになったのでしょう。いろいろと書き込まれているので、失礼ながらいろいろと想像してしまいました。感想文の提出期限は4月30日(日)と書かれていますが、ちゃんと書けましたか。日曜日が期限という事は学校の宿題ではなかったのでしょうか、塾かな。4月2日より少し前に読み始めているようですし。まあ、はっきりといってこんな本の感想文を出すのはちょっと学校には合わないしね。貴女はいったい幾つぐらいだったのでしょう。書き込みはほとんど漢字の振り仮名で、所々難しい漢字の練習がしてあります。例えば、懐疑とか、維持とかは余白に何回も書き取りしていますね。小学校高学年か中学くらいかな。ちょっと読みが難しい漢字には全部振り仮名が振ってあって、感心しましたが、おじさんとしてはちゃんと期限内に読めたかどうか心配になります。
ところで感想はどうでしたか。おじさんが初めてこのバローズという人の小説を読んだのはこの金星シリーズでした。中学校の木造校舎の二階図書室の窓側にこの金星シリーズと火星シリーズとが並んでました。金星シリーズを手にとってその表紙を見た時、何か妙に現実感のあるしかし幻想的な絵に引かれ、思わず手に取り読みふけってしまいました。美男美女、冒険家とお姫様、手に汗握る活劇とロマンス、奇妙な世界と不思議な生き物たち、若くてすれていない人なら全てが引き込まれると思います。以前はこんなものに夢中になるのは男だけかと思っていましたが、どうも違っていたようで女性も同じようにファンになるようです。この金星シリーズはカースン・ネーピアがなまじロケットなぞに乗るのでまるでSFのようですが、書かれた当時の科学の進歩を考えてみると、やはりかなり適当でとても科学的とはいえません。おじさんはここからSFへと進みましたが(職業まで技術屋になってしまいましたが)、今から考えると火星に行こうとして金星に行ってしまうこんなロケットをある程度は信じていたなんて恥かしい所ですが。今考えると、もっともっと大切なメッセージがあったのだと判ります。人間には大切なもの大事にすべき事があってそのためには一層懸命に生きなければいけない、という事です。この小説の書かれたアメリカという国と時代とが現在の日本とは違うという事から、やることすべきことは本の通りとはいきませんが、そういうものがあるという事を忘れてはいけないとおじさんは思います。
さて、雪○博子さん、貴女は最後まで読んでどう思われたでしょう。課題として仕方なく読んだだけで終ってしまったでしょうか。それとも夢中になって2巻3巻と読んだのでしょうか。おじさんはもし最後まで読んだなら夢中になるに違いないと思ってますが、、、 ドウーアーレーとカースン・ネーピアがどうなってしまうのか続きを知らずにいられるとは思いませんから。
最後になりますが、もし雪○博子さんこの文章を見られる事がありましたら、まず、この本を再読させてくれる機会を作ってくれた事を感謝いたします。そしてバローズにまだ未練があるようでしたらこの本は喜んでお返しします。おじさんも一度すべてを処分してしまいましたから、手放した物の辛さはよくわかります。
本当に有り難う御座います。

別所信次


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