創元推理文庫601-35
by小野寺 芳広
初めて『ルータ王国の危機』を読んだのですが、場面の展開がスピーディーでドキドキ、ワクワクしながら読むことができた。
また、ヤンキー成年バーニーがいくつもの困難や試練に勇猛果敢に挑む姿には、現実はこんなにうまくいくはずがないと思いながらも爽快感を覚えずにはいられない。
そう思わせる背景にはバローズの巧みな登場人物の設定があると思う。
主人公であるバーニーは困難を目の前にしても決してくじけず、何事にも前向きに取り組む人物として描かれている。そして、そのバーニーが愛するエマも思慮深く女性でありながらも勇敢な部分を持ち合わせた人物である。その他バーニーを取り巻く人々は皆一様に、バッツォウ中尉にしても、ルートヴィヒ公にしても善良な人間として描き出されている。それに対して、バーニーの敵となるレオポルト、ペーテル、メンクは残忍で狡猾、欲深い人物に設定されている。考えてみると善人な人間の代表バーニーが、人間のどす黒い部分すべてを持ちあわせているといっても過言でない人物たちに挑み、大きな 幸福を手に入れるのだから爽快でないはずはないのである。
ひょっとするとバローズは意図的に人間の中に潜む善と悪を対立させたかったのかもしれない。対立させ、善の勝利に喜びや小気味よさを読者に感じさせる。
そこにこの作品の意義があるのかもしれない。登場人物にかぶせられている人間の陰の部分や陽の部分は、現実では一人の人間の中に存在するものである。
あえてそれを対立させ、善なる人たちの、陽の部分の勝利に喜びを感じる自分を発見させる。そうすることで心の内の何に従って生きることが人間としての幸福につながるのか、バローズは作品を通して確認させたかったのかもしれない。