ハヤカワ文庫特別版SF〈TARZAN BOOKS〉
by タカちゃんママ
20年近く時間を置き、やっとターザンを読む機会を得ることができた。
自分ではもっとストーリーを記憶していると思っていたのだが、読み返すうちほとんど内容を覚えていないことに愕然とした。今でも断片的なシーンは映像のように、それは鮮明に思い出されるが、話の内容は当時の私が受け取ったものとは大分かけ離れているようだ。しかし驚いたことに挿し絵はこの年月をもってしても、ほとんど当時の印象と変わらなかった。また、当然ではあるが色あせることなくわたしのインスピレーションを心地よく刺激してくれるモノであった。そしてこれらの作品は、登場人物が武部画伯の挿し絵のイメージで動いてくれたので、上質の映画を観たときのような、とても有意義で幸せな時間を持つことができたのだ。
私がERBの作品と初めて出会ったのは、小説というもの自体を読み始めたばかりの頃だった。当然、漢字にもつまずき、理解できない言い回しも多く、それは遅々たる進みであったように思う。夢中になって読み進めるので電気をつけるのも忘れ、気が付くと辺りが暗くなっていることも屡々だった。「次の挿し絵になったら、今日はやめよう。」と決心しては、また次の挿し絵まで…と結局親に注意されるまで貪り読んでいた。最近あまり挿し絵のはいっている本を見かけないような気がするが、寂しく感じる 次第である。(たまたま、わたしが見かけないだけかもしれないが。)
武部画伯の描く女性は気品と色気があり、凛としているところが大変気に入っている。大好きである。しかし、いまでは気にならなくなってしまった彼女たちの肌の露出度は、当時の私には非常にエロティックかつ神秘的に映り、とても 恥ずかしかったように思う。
「勝利者ターザン」に至っては人前でブックカバーを決して外せないのは勿論のこと、ひとりで鑑賞するのにも赤面していた。なんと、うぶだったのだろう。以前からわたしの知人は、ターザンというとどうしても「オレ、ターザン。」的なステレオタイプを思い浮かべるらしく、ターザンについて熱く語る私はなんとなくばかにされているような対応を受けてきた。親にいたってはターザンとは ジョニイ・ワイズミュラーのことであった。(これからの人はターザンというとディズニーターザンになってしまうのだろうか。)彼らに、ターザンが多国語をあやつり、知的で気の利いた会話のできる英国貴族グレイストーク卿 という面も持ち合わせることを説明しても端から聞く耳持たずという感じであった。
それは悔しくもあったが、自分だけは知っているという優越感もあり良しとしていた。
現在、夫を洗脳中であるが、年頃になり次第息子たちにも洗礼を受けさせようと思っている。
今回、ターザンを読んで子供の頃あんなにも興奮したのか解るような気がした。やはり、エンターテイメント性は高いと思う。しかも、ターザンのキャラクターは大変魅力的である。時として非情ではあるがロマンチストでもあり(おまけにおちゃめ)、類猿人であり英国紳士である。
正義感の強い子供だったわたしには、彼の思考の方向性はとても好ましく思えたことであろう。強いということだけで正義だったかもしれない。また、猿人として見下している 周囲の人々に彼がその知性と気品を見せつける時、グレイストーク卿としての彼が素手でヌマを締め上げ倒す時などはヒーローの正体を知っている者として、まるで身内のように爽快感を覚えたのではないかと思う。(特撮ヒーローの変身シーンを見るときの喜びと似ていると思う。)
読んでいて気がついた、時代背景からだろうか、これらの本には様々な差別用語が多用されている。
以前は当たり前の表現だったのだが、最近目にしなくなった表現が気になった。
その言葉を発する人間の価値観などが顕著に表れていてかえって新鮮な感じがする。
もっとも作品を読んで不快な思いをする人も確かに存在するのだろうから、こういう発言は慎重にしないといけないのだろうけれど、再版などに際してこれらの表現があまり差し障りのないものに変えられたりするのは不本意な感じがする。本のもっている臭いのようなものが違ってしまうようで、是非残してもらいたいといらぬ心配をしてしまった。文部省が「学校図書には不適当な表現がある」とか言い出しはしないかと。(老婆心)
「勝利者ターザン」と今回読んだ他の3冊では書かれた時代が若干異なるせいか、飛行機なども登場してターザンのジャングルにも文明の波が入ってきていた。(あいかわらず船は治安が悪いらしく反乱は起こるし、転覆してしまうが) 「ターザンの凱歌」ではシェエタを慣らしその片鱗をみせていたが「勝利者ターザン」ではすっかり動物たちを手なずけていて、動物語も習得している。戦争なども絡めてあり途中をとばして読んでいるわたしにとっては間がとても気になるところである。
また、同情の余地が多大にあるかわいらしいラーのその後も気になるし、秘境編も読んでみたいとますますのめり込んでいる自分が居る。彼の灰色の瞳に魅せられてしまったわたしのターザン熱はまだまだ続きそうである。
ひたすら自己満足のノスタルジーに浸ってしまい内容の感想文になっていないところはご容赦ください。この度大プレゼント大会に携わった方々には、ほんとうに感謝しております。ありがとうございました。 以上