ERB作品感想文集
『失われた大陸』
Illustrated by Motoichiro Takebe
この本の表紙絵は権利者である故武部本一郎夫人・武部鈴江さんの許諾により転載しています
創元推理文庫SF「失われた大陸」
"Beyond the thirty" and "Over the forty"
別所信次
初めて「失われた大陸」を読んだ時から、妙に気になる作品でした。今再読して、やはり波長が合うなと感じます。火星でも金星でもペルシダーでも感じられない、妙な現実感がある所がよい。それは自分が始めて読んだ時期のためかもしれません、つまり火星にも金星にも生物はいないし、地球空洞説はナンセンス、アフリカは暗黒大陸ではないという事がはっきりと知ってしまった後に、−もちろん主立ったバローズも読んだ後に− 出合ったという事です。一部の未来予測、たとえば“航空潜水艦”とかを除けば、破綻が少なくいろいろと知ってしまった後でも楽しめたという事が好きだった理由かもしれません。
改めて読み、本当の所を言えば、やはりアラが見えます。前半部分の膨らみに比べ後半はまったくの粗筋しかないとか、、、、 主人公はうろうろとするだけで何か考えているとは思えない(バローズの主人公は大抵そうですが)、、、などなど。けれども後半の中国が絡んできて世界がぱーっと広がっていく所の、あの感覚は何度読んでも感動に近い物を感じます。ここで山場を作り以下2巻へとシリーズ化すればなどと思ったりもしますが、そうは言ってもあの時代の読者が求める娯楽がこういったお話ではなかったのでしょうが、それにしても書き込みの足りない印象の薄い薄い小説となってしまった事が残念です。世に出るのが早すぎたという感じがします。いま少し後に出て(20年くらいか)、後半部分がきちんと書かれていれば人気作となり得たかもしれないと思うのはやはり贔屓の引き倒しでしょうか?こういう作品を読んでいると、なんてバローズって下手なんだろう、結局あの時代の大衆作家の一人なのかななどと考えてしまいます。。でも今になっても夢中になれる所があるのはなぜなんでしょう。特にこの「失われた大陸」と。
バローズの成功した小説はすべて夢と現実と過去の世界だけという所から、バローズは永遠の少年なのだろう。夢の世界とはバルスームに代表されるものであるし、現実とはターザンもしくはある意味では金星も、そして過去とはペルシダーと原始へのあこがれである。そして主人公たちはただただ現実のその一瞬を必死に生きていく、少年は夢と憧れを持ってただただ現実を生きるものだから。だから未来の世界に関して言えば、この「失われた大陸」を除けばほとんど見るべきものがないのかもしれない。そういった意味で、永遠の少年が未来を見ようとしたこの作品と少年を抜け出ようとした当時の自分とが引き付け合っていたのかもしれない、、、
でも40歳を超えても引かれるのは何故???
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