ERB作品感想文集


『ウォー・チーフ』

創元推理文庫拳銃「ウォー・チーフ


ウォー・チーフ
−その猛々しさ、一人の若者の成長、そしてバローズの正義−

by chuman

 第一章、スコットランドの野蛮人の宴から始まる。
・・・ウェスタンではないの? と出足を挫かれるが、インディアンの先祖紹介、あるいは野蛮人の系譜紹介であった。
 早速、バローズの野蛮への憧れ、敬意が表明される、それは主人公の両親に対する、

 「ほかのすべての開拓民とほぼ同じように、無学で、文盲で、不潔だった。 彼らの野蛮な祖先が持っていた気品と威厳とおちつきは、その片鱗も見られなかった。」(p11)
この、一文でもあきらか。ここまではっきり書くか!

 主人公ショッディジージの生い立ち、アパッチの代名詞ともなるジェロニモ(ゴヤスレイ)との出会いが描かれ、物語は部族の一員としてのショッデイジージの成長、インディアンの生活、戦いが描かれていく。
 読む前には、インディアン部族の中で、白人の子供が成長していく過程での葛藤の物語と勝手に想像していた。 が、主人公の外見は他のインディアンと変わりなく、そして当人もインディアンであることに疑いを抱かず、ただ、主人公とジェロニモの出会いを知っているネドニ族の酋長ジューには「目白の子」とのそしりを受けるがそれで出生のことで思い悩むことはないのである。 そう、これはインディアンの中におかれた白人の子供の葛藤の物語ではなかったのだ。(本当は白人らしいのだが)

 読み進むにつれて驚いたのが、インディアンの生活、戦闘におけるアパッチの戦略、信仰のシーンの詳細な描写そしてリアリティ。 訳者あとがきを読むと、バローズの騎兵隊への入隊やその後の転職の数々が生かされているとのことである、納得。

 アパッチの猛々しい戦闘の中で徐々に実力を発揮しだす主人公であったが、ここで主人公が部族の中で特異性を持ちはじめることになる。それは、アパッチの名に恐怖を付加する残虐行為に対して主人公が取る行動である。この設定はターザンとも類似している。 両者とも殺人に対しては何ら良心の呵責を感じないが、ショッデイジージは残虐行為に、ターザンは人肉を食らうことに対して、ともに反発や嫌悪があるわけではなく、何となくその行為を行わない。 このキャラクター設定は作家バローズがヒーローとしての最低ラインとして定めているものなのか。残虐行為のシーンは省くことが可能なシーンだと思うのだが(リアリティを損なう惧れはあるが)、敢えて主人公がそれに対峙する状況を描写してしまうバローズの正義の発露なのだろうか。
次の文章が答えになっていると思うのだが、

 「要するに自分はそうしたくないから、彼女に危害を加えなかったのだと彼は考えた。彼には野蛮な躾よりも強い精神力があることを当人はしらなかったのだ。」(p245)

 とりとめのない偏った感想になってしまいましたが、幼なじみイシュケイネイとの相思相愛、宿敵ジューとの対決、白人娘ウィチタ・ビリングスとの友情、等々波乱に満ちた物語は是非一読を。
(アパッチ・デビルが読みたい・・・)


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