ERB作品感想文集


『火星の古代帝国』

創元推理文庫SF「火星の古代帝国


by satoco m.

ERBの世界の多くは)登場人物が王子と姫の話なので、女性が好きそうな話だと(N氏に)言われているが、彼の作品の魅力は、登場人物達の精神的たくましさや、義理人情に厚く正義感にあふれた人物を描いている所であると思っている。ストーリーの中身は多少ご都合主義のところも目立つが、単純明快な勧善懲悪の部分に魅力を感じている。
さて、この火星シリーズの中で、唯一読んでいなかったのが古代帝国である。途中が抜けているのはどうにも歯がゆくて、早く合本が出ないかな〜と首を長〜くして待っていた。(でも、未だに出ていない)
この題名を最初見たとき、「火星の透明人間」の焼き直しではないかと思っていたが内容を読んでみるとそれは思い違いであることがわかった。
孫娘ラナを取り巻くさまざまな登場人物は、今までのシリーズをほうふつさせ、又忘れかけていた前作を思い出させてくれた。(しかし私は物忘れが激しいので、いちいち読み直して確認するしかないのが悲しい)
出番の減っていたカーターにも冒険のチャンスをたくさん与えてくれた。
第一部の古代の死者達は少し物悲しい話だった。
怪しい術使いのホル・カイ・ランを切り捨てた時、はるか昔の住人がよみがえった。
が、自分たちの時代からどのくらい時が経ったかの自覚しないまま埃となって消滅してしまった。
このシーンはドラキュラの話よりも悲哀を感じる。なぜ、作者は彼らを生かしておかなかったのだろう?
単に面倒だったのか、それとも生かしておくことは彼らにとってつらいことだと考えていたのだろうか。
「5万年前の男」でも、ラストで現代の時代に合わず自殺してしまった。
彼らやERBが現代の日本に来ていたら同じような行動を取ってしまうかもしれない・・・
第2部「火星のブラックパイレーツ」第3部「火星の冷凍人間」にはあまり目新しい題材はなかったが、これはカーターの冒険談として読めばそれはそれでおもしろかった。
第4部「火星の透明人間」このラストでちょっとがっくりしてしまった。
デジャー・ソリスとロハスの三角関係をどうやって誤解を解いて解決するのかと思っていたら・・・
ロハスもカーターをだましていたとは!!これはあんまりである。あまりにカーター(男)の都合が良すぎる!! もっとカーターにはお仕置きをするべきだと思う。こんな単純なラストシーンだけは許せなかった。
フツー女性は、こんなに長く好意を持っている男性をだませないもんである。ちょっとしたしぐさで愛してないことがばれてしまう。きっとロハスはカーターに対して本当に愛情に近い感情を持ち始めていたと思う。だが、カーターの目を見れば、自分のことを一番に愛しているとは思えないから感情を抑えていたのだと思う。最後はきっとデジャー・ソリスの見えないところで涙を流していたのだろう。(気が強いから心で泣いてるかも・・・)やっぱりERBは男性の作家だと実感してしまった作品である。
以上

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