金星儀
金星(アムター)の地図は、三つの内心円を示している。内側の二つの円のあいだに、「トラボル」と明示された環状の帯があり、それは「暑い国」を意味する。ここでは、海、大陸、島などの境界線は、それをとり巻く二つの円の縁まで伸びて、場所によっては、まるで冒険心に富んだ探検家が危険をおかして未知の辺境を調査した地点を示すかのように、これらの境界線が交差している。「トラボル」は「ストラボル」をぐるりととり囲んでおり、「ストラボル」はアムターの中心にある。「ストラボル」は極暑の国であり、土地は巨大な森と密生したやぶでおおわれ、巨大な陸生動物、爬虫類、鳥類が住み、暑い海には海の怪物が群がっている。「ストラボル」まで探検に行って生還したものはひとりもいない。
「トラボル」の向こうに「カーボル(寒さの国)」がある。ここは「ストラボル」の暑さに匹敵するくらい寒い。そこにもまた、怪獣がいる。冒険家の話によると、毛皮を着た獰猛な人間が住んでいるという。だが「カーボル」は住みにくい土地で、危険を冒して行く機会はないし、「縁」を越えて溶海に転落するのが恐いから、あえて奥まではいって行こうとするものはほとんどいない。
アムターは、ちょうど大きな受け皿のように縁が上向きになった大きな円盤で、それが金属と岩の溶けた海に浮かんでいる。