創元推理文庫「火星の大元帥カーター(旧)」解説より
Feb.1966
第三巻の本書は「オール・ストーリー・マガジン」1913年12月号から1914年3月号にかけて連載され、1919年に単行本として出版された。火星シリーズ全巻の中では冒頭の一、二、三巻はいわば三部作をなしている。すなわちカーターの火星到着、デジャー・ソリスの誘拐、彼女の救出、という三段階で、ここで一応、三部作は大団円を迎える。次回の第四巻では一転して、カーターの息子力ーソリスと、タイトル・キャラクターのプタースのスビア姫が、ヒーローおよびヒロインとなり、ERBのイマジネーションが生んだ傑作の一つ、精神の念力によって生まれるロサールの幻の弓兵隊の活躍となる。シリーズ中ではもっとも短い作品の一つだが、捨てがたい魅力を持つ異色の巻である。
ERBの全作品中で、ターザン・シリーズや他のSFシリーズを押えて、「火星シリーズ」が最高の評価を受けていることは――ことさらにわたしが持ち上げなくとも――スプレイグ・ドキャンプやレイ・ブラットベリをはじめとする一流の識者、SF作家などが肯定するところである。本文庫では引きつづいて「金星シリーズ」全五巻「ペルシダー・シリーズ」全七巻をはじめバローズのSF作品の全貌を紹介すべく、目下準備をすすめているが、ERBの国際的な評価を示す一例として、つぎの事実をお伝えしよう。
現在、オクスフォード大学出版部からイギリスの国語教科書用テキストとして、「ストーリーズ・トールド・アンド・リトールド」双書という権威あるシリーズが発行されている。この中には第一巻「火星のプリンセス」――これはエスペラント語にも訳されている――が含まれているのである。ちなみに、このシリーズの他の作家は…ディケンズ、ドイル、シェイクスピア、スティブンスン、デフォー、ウェルズ、サバチニ。
注:この文章は厚木淳氏の許諾を得て転載しているものです。