創元推理文庫『火星の黄金仮面』
16 Jun.1978
「火星の黄金仮面」 Outlaws of Mars はオーティス・A・クラインが1933年からアーゴシー誌に連載した作品。本書は1961年版のエース版をテキストとした。
クラインは1891年にシカゴで生れたオランダ系の作家。1920年代初頭に映画のシナリオや通俗小説を書きはじめたが、その前にも作詩や音楽出版の仕事に手を出している。あらゆるタイプの小説を書き、ほかにも多くの雑誌に寄稿しているが、ウイアード・テールズ誌には創刊号から「千の形をもつもの」 The Thing of a Thousant Shapes を連載している。
彼はE・R・バローズの数多い亜流のひとりといわれ、またその空想冒険小説の作風はバローズの流れをくむもので、当然のことながらバローズの競争相手となり、アーゴシー誌とウイアード・テールズ誌を舞台に、たがいに火星と金星の繩張り荒らしをやって、読者と出版社を喜ばせたという話が伝えられている。
彼の最高の成功作は「野性の呼び声」 The Call of the Savage だろう。これは映画化されてドロシー・ラムーアの腰布姿で当時大評判になり、ラジオの連続ドラマにもなっている。
作品リスト(単行本の発刊順)このほか本にはなっていないが「月をまわるレース」Race Around the Moon(TWS誌発表)「流星の卵」Spawn of the Comet(アーゴシー誌)「土星のサタンたち」Satans of the Saturn(アーゴシー誌)などの作品もある。
- 「月のメイザ」 Maza of the Moon (1930) は1929年からアーゴシー誌に連載した月世界の生物相手の空想小説。
- 「野性の呼び声」 The Call on the Savage (1937)は「ジャングルのヤン」Jan of the Jungle という題で1931年にアーゴシー誌に連載した、南米のジャングルで育ったヤンのアトランティス大陸の末裔たちを相手にした冒険小説。「インドのヤン」Jan in India という続編もアーゴ シー誌に書いている。
- 「びっこの男」The Man Who Limped and Other Stories(1946)はドラゴマン・シリーズとして主人公ドラゴマンの冒険を描いた空想冒険小説集。1930年から33年までにオリエンタル・ストリーズ誌に発表したものから選ばれている。
- 「ペリルの港」The Port of Peril(1949)は1932年にウイアード・テールズ誌に「金星の海賊」Buccaneers of Venus として連載した、ロバート・グランドンという主人公の金星での冒険。モーガン博士がここに登場して次の火星冒険小説にもつながってくる。
- 「火星の剣士」The Swordsman of Mars(1960)は1933年にアーゴシー誌に連載した初の火星もの。地球人がテレパシーで火星に送られ、火星文明を破滅から救う物語で、本書「火星の黄金仮面」がその続編ともいえる。
- 「火星の黄金仮面」(本書)
- 「ペリルの惑星」The Planet of Peril(1961)は1929年にアーゴシー誌に連載されたグランドンを主人公とした金星シリーズの最初の作品。
- 「ペリルのプリンス」The Prince of Peril(1962)は1930年にアーゴシー誌に連載のグランドン・シリーズ第二作。
- 「虎の息子タム」Tam, Son of the Tiger(1962)はウイアード・テールズ誌に1931年に連載されたジャングル物。
クラインはまた世界中に手をひろげた版権エージェントでもあった。H・G・ウェルズなどを含む多くの有名作家の作品を手がけ、オーティス・クライン・アソシエイツという名でいまもそのエージェンシーはつづいている。
comment
バローズ贋作作家として知られるO・A・クライン『火星の無法者』の創元推理文庫版の訳者あとがき。多くのバローズ・ファンは久保書店版ではなくこちらですよね。なんといっても武部画伯のイラスト!。
解説としてはあっさりしているというか、作者紹介に終始している内容。邦題(仮題だと思うが)もついたリストは貴重ではあるかもしれない。