偕成社 SF名作シリーズ『火星のプリンセス』
作者について エドガー=ライス=バローズというと、みなさんはきっと『ターザン物語』をおもいだすにちがいありません。
そうです。この『火星のプリソセス』をはじめ、一〇巻の火星シリーズをかいたバローズは、二三さつものターザン物語をかいた作者なのです。バローズは一八七五年、アメリカのシカゴで生まれ、そだちました。
父が軍人だったので、かれも軍人になろうとかんがえていましたが、けっきょく、カウボーイになったり、鉄道保安官になったりしているうちに、三〇才になってしまいました。
いさましくて、活動的なしごとがすきだったのです。
しかし、つぎからつぎへとしごとをかえたので、いつまでもびんぼうでした。それにかれは、すでに結婚して、ふたりのこどもがいたので、おかねがひつようになってきました。
そこで、「オール・ストーリー・マガジン」という雑誌の編集部に、きみょうな長編小説をかいてもちこんだのです。
このとき一九一一年。長編小説の題名は『火星の月の下で』というもので、一九一二年の二月号から、雑誌にのりはじめました。
作品と内容 『火星の月の下で』という小説は、たちまちアメリカじゆうの人びとのひょうばんになりました。
こんなSFなんて、アメリカでは、はじめて発表されたからです。
いや、ヨーロッパでも、フランスのジュール=ベルヌ(一八二八〜一九〇五年)とか、イギリスのウェルズ(一八六六〜一九四六年)が、やっとSFを発表したていどでした。それも、せいぜい月世界までの話です。
ところが、バローズは、火星を舞台にして、まるで西部劇のように痛快なすじだてのSFをつくりだしたのですから、おおくの読者がおどろき、そしてすっかりとりこになったのも、とうぜんのことでした。
じつは、この『火星の月の下で』が、『火星のプリンセス』のもとの題なのです。
つまり、『火星のプリンセス』は、バローズのSFの第一作であるばかりでなく、アメリカのSFの開祖にもなったのでした。
バローズは、この本を第一作として、一九四一年まで、三〇年間にわたって、火星シリーズをかきつづけました。
SF作家として大成功をおさめたバローズは、たいへんなおかねもちになり、しばらくのあいだハワイにすんで、こんどはターザン物語を発表しはじめました。
ターザン物語が、世界じゅうの人びとに、いまでもよろこばれていることはいうまでもないでしょう。この物語ほど映画やマンガになったものはないので、小説をよまないひとでも、ターザンをよくしっています。
一九五〇年三月、かれは七五才でなくなりましたが、かれがそのときすんでいた町は〈ターザナ〉というなまえでした。ターザンにちなんでつけられた町のなまえです。
アメリカ人が、バローズをどんなに誇りにおもい、たいせつに記念しているか、これでもわかるでしょう。
宇宙の生物 この本のなかにでてきただけでも、みなさんが、目をみはるような火星の生物や動物は、一〇種類以上あります。
すべて、バローズの空想力によってつくりだされたものですが、つくりもののような気がしないのは、読者の空想力に共感をあたえる書きかたがしてあるからでしょう。
それに、われわれは、
「宇宙には、たしかに、なにか生物がいるにちがいない。」
という科学を、信じています。
げんに、すぐれた宇宙科学者のあいたでは、宇宙人存在説が、えんえんと議論されつづけていますし、宇宙人との電波交信を実験している天文台もあります。
火星、木星、金星には、すくなくとも、なんらかの生物はいそうです。
なにかがいるとすれば、それはバローズがこの本のなかにかいたような、火星緑色人かもしれないし、十本足の火星犬かもしれないし、八本足の火星馬かもしれないのです。
あるいは、地球の人間のそうぞうをこえた生物が、もっとウヨウヨいるのかもしれません。
太陽系のそとの宇宙には、地球人よりはるかに高等な動物だか人間だかが、いくらでもいるとかんがえられるのです。
すなわち、銀河宇宙とは、一千億個の恒星の集団ですが、このうちの一割の恒星は、惑星をしたがえているからです。
たとえば、白鳥座六一等星や、へびつかい座七〇等星のような恒星は、惑星をしたがえていることがわかっています。
いずれにしろ、神秘となぞにみちみちた宇宙ですが、一日一日、人間の努力によって、その神秘のベールやなぞは、あきらかにされていきます。
また、もし、どこかの星に、たいへんすぐれた頭脳の宇宙人がいるとすれば、かれらのほうからも、研究をすすめてくることでしょう。
こうして、いつの日か、われわれは、SFの世界を、ふつうのあたりまえのこととして、経験するにちがいありません。
comment
偕成社版の解説です。訳者の野田開作氏、ググってみると、「野田改作」「エロ系の作家」「偕成社の『名探偵ホームズ』全集における度の過ぎた「翻案」で悪名高い作家」とまあ、散々ないわれようですが、偕成社と縁のある作家であり児童文学翻訳家、ということでまあいいのではないでしょうか。
解説自身は、よくあるバローズ解説の焼き直しですが、最終章は異彩を放ちます。特に、「火星、木星、金星には、すくなくとも、なんらかの生物はいそうです」などという目を疑うようないい加減な文章を見ると、福島正実、南山宏、内田庶といった、早川書房の編集者出身で児童向け叢書に力を入れてSF普及に尽力した方々とは比べちゃいけないといことなのでしょう。