ERB評論集 Criticsisms for ERB


〈海外マンガ研究家〉小野耕世
「夢とロマンのターザンの世界」

ツル・コミック社『冒険王ターザンNo.1 謎のモグラ人間』解説より

1972


 冒険王ターザン──私は,このことばが好きだ。〈冒険王〉ということばは,まさに,ターザンのために,用意されていたような気さえするほどだ。
 そうじゃなりですか?
 身に寸鉄も帯びず,いや,ただ,ナイフ一丁だけをたよりに,ジャングルの魔境をひとり行くターザン。このターザンの行動こそ,現代のわれわれからみて,冒険という名にふさわしいのだ。
 まあ,冒険ということばは,文明の濁った空気のなかで,盗聴装置だとか消音ピストルなどをちょこまかと使って,メカニズムのシステムに組みいれられて行うような──存在感の希薄な文明都市での活劇物語ではなくレ太古からの自然が息ずき,その清澄な空気のなかで行われる退癈などまったく知らない,真の野性児の活劇物語にこそ,ふさわしいことばなのだ。
 そして,野性児ターザンは,なによりも,行動の男である。ターザンの物語は,そのアクション場面において,なによりも,すぐれているのだ。エドガー・ライス・バロウズの原作小説は,その活劇場面において,どこよりも,生き生きとしている。
 ということは,原作の小説も.その場面が目に見えるような,視覚的な描写で,効果をあげていたということであリ,つまり,ターザン物語は,はじめからコミックス化にふさわしいロマンの世界だったということになる。
 この劇画の著者ラス・マニングは,この夢の世界のコミック化に,全力を注いだ。その結果,ここに登場するコミックス版ターザンの世界は,単に野性の荒々しさを表現しているだけでなく,そのやさしさまでも,描いている。ターザンだけでなく,彼をとりまくアフリカの自然,動物たちや樹木の描写も,きめが細かく,きれいだ。それに,登場してくる女性たちが,それぞれ個性的で,美しいのも,マニングによるターザンの特徴だろう。
 「私は,このコミックスで,なにか,ありきたりでないものをお目にかけたい。読者に毎日のうっとうしい世界を忘れさせて,わくわくするような,・ターザンの冒険ロマンの世界に送りこんでやりたいのだ。テレビや,映画ではできないことを,コミックスでやってみたい。英雄ターザンの別世界──われわれのみんなが,心の奥ではあこがれている,夢の冒険世界に,読者を案内していきたいのだ」
 ラス・マニングは,こう語っている。いっしょに,この別世界を,楽しもうではないか。


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