ERB評論集 Criticsisms for ERB


「SFマガジン」編集長 森優
「世界最高最大の冒険王者」

ツル・コミック社『冒険王ターザンNo.2 ターザン対原始怪獣』解説より

1972


 冒険小説の定義を百科辞典に求めると,少くとも「多種多様な冒険,事件のすばやい展開,並はずれた興味性」の三要素をそろえた小説,とある。だが,これだけではまだ,読者に熱読され,時代を超えて読みつがれていくには不充分である。
 では,何が必要か。強烈で個性的な主人公の魅力,これである。そして数ある冒険小説のヒーローたちの中で,No.1をあげろといわれれば,アメリカの作家エドガー・ライス・バロウズの生みだしたターザンをおいて他にはない。
 バロウズといえば,わが国ではもっぱら, 「火星シリーズ」や「地底世界シリーズ」の作者として,SF作家で通っているが,本国ではもちろん,知名度,人気ともにターザンの原作者としてのほうが上だ。彼自身,自分の筆が創りだしたこの英雄をいかに愛していたか。それは,彼がターザン物を,デビュー直後から病没する3年前まで,えんえん35年間にわたって書き続けたこと,また全著作69点(単行本の数で)のうち,じつに26点がターザン物で占められているということが,何よりも雄弁に物語っている。
 また,その人気のほども,1912年に登場以来これまでに,じつに31カ国語に翻訳され,58力国の人々に愛読された(その中にはなんと,革命後のソ連も含まれている!)という事実に,よくしのばれる。さらに,映画化,コミック化,テレビ映画化と,あらゆる娯楽メディアを通じて,世界中の人々に愛されていることは,だれもが知るところだ。
 ところで,ターザンの原作とその映画版,コミック版とを比べると,微妙な差があることに気づく。オリジナル・ターザンと映像・画像のターザンのキャラクターが,だいぶ違ったものになっていることだ。
 役者のターザンは,密林に君臨する正義の味方,文明悪に対する自然の保護者,野性動物に対する心やさしい友として登場する。
 ところが原作では,ターザンはジャングルの,文明世界のいずれにも属さぬ,というより属せぬ,他者不信,文明不信にこりかたまった孤独な存在である。一瞬の油断が死につながる危険なジャングルでは,文明社会を律する道徳や倫理は通用しない。だからターザンも,正義の人ではなく,敵に勝つためには,どんな手段も辞さぬ,ときには欲望と感情のおもむくままに無用な殺りくさえやってのける非情な闘争者として描かれているのだ。
 それはメディアによって対象とする層が違い,また要求されるリアリズム状の質が異なるからだろうが,いずれにせよ,どのメディアのターザンも,それぞれに個性的で楽しめることに変りはない。
 現在,このターザン・シリーズは,本国アメリカはむろんのこと,英仏独オーストラリア,カナダなど,世界の主要国で大変なリバイバル・ブームをきたしている。そのコミック版が刊行されると聞き,熱烈なターザン・ファンのひとりとして,心からうれしくおもっている。


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