ERB評論集 Criticsisms for ERB


野田昌宏「恐るべき多作家バロウズ」

ハヤカワSFシリーズペルシダーへ還る解説より

Feb,1970


 ペルシダー・シリーズの第1作 "At the Earth's Core" 、が世に出たのが1914年、そして第7作目にあたるこの "Savage Pellucidar" 、が単行本として世に出たのは1963年のことだから、実に半世紀ものギャップが存在するわけである。
 ここでペルシダー・シリーズの全作品を整埋しておこうと思う。資料は H.H.Heins 編纂のものによる。
  1. At the Earth's Core 1914『地底世界ペルシダー』
    〈オール・ストーリー・ウィ―クリー〉誌、1914年4月4日号より25日号まで4回の連載。
     単行本は1922年にマクルーグより刊行される。
  2. Pellucidar 1915『危機のペルシダー』
    〈オール・ストーリー・キャパリュ・ウィークリー〉誌1915年5月1日号より29日号まで。
     単行本は1923年にマクルーグより刊行される。
  3. Tanar of Pellucidar 1929『戦乱のペルシダー』
    〈ブルーブック誌〉1929年3月号より8月号まで6回の連載、翌1930年メトロポリタン社より単行本として刊行される
  4. Tarzan at the Earth's Core 1929『地底世界のターザン』
     前作にひきつづき、〈ブルーブック〉誌1929年の9月号から翌1930年3月まで7回の連載、同年11月にメトロポリタン社より単行本。
  5. Back to the Stone Age 1937 『栄光のペルシダー』
    〈アーゴシー〉誌1937年1月から3月にかけて計6回(同誌は週刊である)にわたり " Seven World to Conquer" の題名で連載され、同年バロウズ出版社より単行本として刊行。
  6. Land of Terror 1944 『恐怖のペルシダー』
     1944年バロウズ出版社より書きおろし長篇として刊行。
  7. Savage Pellucidar 1963『ペルシダーに還る』*本書
     この作品は4つの中篇からなっており発表されたのは、
    The Return to Pellucidar〈アメージング・ストーリーズ〉1942年2月号
    Men of the Bronze Age〈アメージング・ストーリーズ〉1942年3月号
    Tiger Girl〈アメージング・ストーリーズ〉1942年4月号
    Savage Pellucidar〈アメージング・ストーリーズ〉1963年11月号
    となっており、4篇目の "Savage Pellucidar" のみがバロウズの死後に発表されたが、執筆したのは1944年頃とされている。4篇目の発表された1963年にカナベラル・プレスから単行本として刊行され、1964年度のヒューゴー賞を受賞していることは御存知のかたも多いとおもう。
 さてバロウズという人が恐るべき多作な作家であり、正式のビブリオグラフィにのっているものだげで実に109篇にものぽっていることは御存知のかたも多いとおもう。
 御存知〈ターザン〉〈火星〉〈金星〉〈ペルシダー〉などのシリーズがその代表的なものであるわけだが、それ以外にも、玉石混淆の一連の作品が存在する。

 まず『ムーン・シリーズ』などが玉のうちに入るだろう。これは1926年にマクルーグから "Moon Maid" として一冊にまとめて刊行されたが、実は次の3篇からなる。
 この作品は月の地下都市に地球人がまぎれこむのを発端とした未来物語で、主人公が未来人へとインカーネートして行くというなかなかこった設定の話で邦訳が大いに待たれるもののひとつである。今日、ペーパーバックではエース・ブックスが入手容易であり、第1作はそのままの題名で、第2、第3作を第2作目の題名で刊行している。
 平易な英語だから、われとおもわん方は原書でエンジョイされんことをおすすめする次第。

〈太古世界シリーズ〉The Land that Time Forget もエースや単行本では一冊となっているが、
 の三篇からなっていて、南海の孤島に前世紀の怪獣が住むというロスト・ワールドものである。

 バロウズが今の北ベトナムからカンボジアを舞台にした作品を書いていることはあまり知られていない。アメリカの探検家が北ベトナムのジャングルの中に古代文明が栄えているのを発見するという『密林の謎の王国』 Jungle Girl という作品がそれで、〈ブルーブック〉の1931年5月号から9月号へかけて連載され翌33年にバロウズ出版社から単行本として刊行されている。

 バロウズのフランケンシュタインばりの話といえば火星シリーズの中にもいくつか出てくるが、『モンスター・マン』 "The Monster Men" という作品は、現代を舞台にして書かれた独立の中篇であり、1913年〈オール・ストーリーズ〉に発表しているから、彼としてはごく初期のものに属するわけである。ペーパーバックがエースから出ている。

 バロウズは他に歴史もの、インディアンものなどをそれぞれ数篇書いているが、これはまだしもいいとして、彼の手になる現代ものというのはあまりいただけない。〈マッカー・シリーズ〉"The Mucker"、 "The Girl from Hollywood" など熱心なファンの自費出版によって、その大部分は入手可能だげれど、アバタもえくぼ、ヒイキのひき倒しというのはこんな場合をいうのだろう。こっちがこっぱずかしくなるようなものが多い。
やはりバロウズは空想の世界でなりふりかまわずにイマジネーションの翼をひろげるのがもっとも彼にふさわしいらしい。

comment

こういう解説があるから、ファンは迷ってしまう。1964年度のヒューゴー賞、野田大元帥はいくつかの解説文でバローズが受賞してしまったことにしているが、残念ながらShort Fiction部門にノミネートはされたが受賞はしていないようだ。ただ、ワールドコンに参加するSFファンの人気投票であるヒューゴー賞にノミネートされたということは、それだけこの第4作の発掘はファンに(バローズ・ファンだけでなく広くSFファンに!)支持された、ということなのだろう。そう思えば、〈火星シリーズ〉としてノミネートされていた1966年のヒューゴー賞のBest All-Time Series を逃したことのほうが惜しかった。ちなみにこの時の受賞作はアシモフの〈ファウンデーション・シリーズ〉。創元文庫で厚木淳氏が自ら訳した上に「スペースオペラ」のうたい文句で宣伝して、野田大元帥の目を丸くさせたといういわくつきの作品だけに、ついニヤリとしてしまう。

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