武部画伯追悼特集 武部本一郎画伯を偲ぶ
野田昌宏『武部氏を喪った悲しみ』
早川書房刊『SFマガジン』1980年10月号収録記事
武部本一郎画伯描く〈火星シリーズ〉の挿画が、世界中のバロウズ・ファンに衝撃的な話題を呼んだのは、もう10年以上昔のことである。
まさにあの絵は衝撃的であった。
豪傑と美女と――
チャンバラと馬と――
お城と洞窟と――
そしてその中に
宇宙船が、飛行船が、地上艇が現われるとき、それは一体どんなデザインのものになる筈か……? そしてなるべきか……?
武部画伯は、この難問をまさに目本人ならではの感性で見事に解決したのだった。
私は一体何組の〈火星シリーズ〉を、〈金星シリーズ〉を、〈ターザン〉を、世界中のバロウズ・ファンの求めに応じて送ったことだろう……?
彼等はひとりのこらず武部画伯のデジャー・ソリスに、ジョン・カーターにしびれた。
くしゃくしゃの一ドル札を二、三枚同封して、古本でよいからミスター・タケベの絵の入っている本をできるだけたくさん送って欲しいと頼んできたアメリカの少年のことを思い出す。
武部氏を失ったSF界の悲しみは、これから徐々に世界中へ浸透していくのだろう……。