講談社 火星シリーズ1『火星のプリンセス』解説より
Mar.1967
みなさんは、火星ときくとなにを思いだしますか。やはり火星人のことか、それとも、アメリカの衛星船マリナー四号のうつした火星写真のことでしょうか。
いまから百年ほどまえに、スキャパレリという天文学者が火星の表面を観察したときに、なにかしまのようなものが見えるといいだし、それがあやまりつたえられて、そのしまはきっと火星のつくった運河ではないかとさわがれました。それ以来、火星には、きっと生物がいるにちがいないといわれてきたのです。
みなさんも火星人のでてくるSFをいくつも読んだことがあるでしょう。どんなやつでしたか。たこみたいなのか、ゴジラみたいなのか、それとも小人か大男だったかもしれません。
いままでに、火星をとりあつかったSFはたくさんありますが、バローズの「火星シリーズ」は、ウェルズの「宇宙戦争」とともに、もっとも有名なものだといってよいでしょう。
バローズの名まえを、みなさんがこれまでにきいたことがなくても、ぼくが、その人は「ターザン」を書いた人なんだよ、といったら、へえ、そうかとおどろくかもしれません。
この「火星シリーズ」はそのバローズが、「ターザン」の一作め(二十さつ以上もある)を書くまえの年、一九一二年(明治四十五年)に書きはじめたもので、ぜんぶで十一さつあります。
ひとつ、ぜんぶ題名と書かれた年をここに書いておきましょう。
1火星のプリンセス 一九一二年
2火足の空中艦隊 一九一三年
3火星の大将軍 一九一三年
4火足のまぼろし兵団 一九一六年
5火星のくも人間 一九二二年
6火星の頭脳交換 一九二七年
7火星の秘密兵器 一九三〇年
8火星の秘密暗殺団 一九三四年
9火星の合成人間 一九三九年
10火星の地底王国 一九四九年
11カーターと火星巨人 一九四元年
これらの作品はみな、ものすごくおもしろいです。いまも、世界じゅうのことばに訳されてどしどし読まれていますし、この「火星のプリンセス」は、二、三年まえからイギリスの中学校の教科書として使われはじめたほどなのです。ぜひとも、さいごまで読んでくださいね。 火足というと、おさらほどの目玉をしたたこみたいなやつをすぐ思いうかべます。
この「火星シリーズ」にももちろんものすごい怪物はでてきます。けれども、火星の世界を支配しているのは、地球人にそっくりの火星人です。地球人と同じように、つよいやつもいればよわいのもいるし、いいやつもわるいやつも、うつくしい人もみにくい人もいます。
それが八本も足のあるうまに乗ったり、飛行艇に乗ったり、ものすごく大きなやりや、かたなをふりまわしたり、大砲をぶっぱなしたりして、火星せましとばかりにあばれまわるのです。
バローズは、ここにでてくるいろいろな男たらをとおして、「わるいこと」とは徹底的に戦おう、それが男というものなんだ――とさけんでいます。
バローズの作品のどれをとりあげてみても、いつもとても気持ちよく、ゆかいに読むことができるのは、すべての作品のなかにその気持ちがはっきりとながれているせいなのです。
comment
講談社版の解説文全文収録です。
第一作ということもあって特に変わった記述はなく、子供向け叢書に野田氏が書いているパターンの繰り返しになっていますが、講談社版の位置を考えるとやはり貴重な記録ですね。
入手できたのはラッキーだったと感じています。