創元推理文庫 ジョン・ノーマン『ゴルの巨鳥戦士』解説より
12 Dect.1975
本書は「反地球の不思議な歴史」という副題のもとに、バランタイン・ブックスのオリジナルとして一九六六年に出版された連作スペース・オペラの第一作である。
現在訳者の手許には第七作までの原書があるが、作者ジョン・ノーマンはその後もこのシリーズを精力的に書きついでいるもようである。なお、副題のほうは第三作以降「反地球の不思議な年代記」というように変わっている。
作者のジョン・ノーマンは哲学博士の肩書を持つ新人作家で、この種のヒロイック・ファンタジーはあまり読んだことがなかったが、みずからそれを書くことによって、自分の意識を拡大し、おのれの創造になる世界に遊べることに魅力を感じて、このシリーズの執筆にとりかかったというように紹介されている。
地球の一青年がなんらかの動機でほかの惑星へ行き、あるいは連れて行かれ、そこで波瀾万丈の大活躍をするというのが、バローズ以来のスペース・オペラの舞台および人物設定の定型となっているようだが、このシリーズもその点では歴史的な名作の型をそのまま踏襲している。ただ、舞台を火星や金星といった実在の惑星にとらず、反地球ゴルという惑星を創りだしたところにひとつの工夫が見られる。最初この反地球という言葉をみたとき、地球とまったく同じ惑星が太陽系のどこかにあって、そこでは地球のAなる人物に対応するA’なる人物が生活している、という設定を想像したのだが、この想像はみごとにはずれた。読んでおわかりのとおり、ゴルは自然環境など地球と似通ってはいるが、まったく同じではない。太陽をめぐる同一の軌道上にあるが、常に地球と正反対の位置にあるため、太陽にさえぎられて、地球からは永遠に見ることができないという星である。
そういえば主人公のタール・キャボットもジョン・カーターやカースン・ネーピアといった先達とは少しばかり趣がちがう。体力に自信はあるが、頭はさしてよくはなく、オクスフォード大学を出てはいるが、アメリカの大学に歴史学講師の職を得たものの、ルネサンスと産業革命の区別がつく程度の歴史知識しかないという、はなはだいいかげんな男である。ゴルにおける活躍も決して正義感から発したものではなく、いわば周囲の情勢に流されて仕方なくそうしているようなところがある。むしろこれはヒロイック・ファンタジーというより、アンチ・ヒロイック・ファンタジーである。そのあたりがこの古典的な形式に盛りこまれた新味といってよいかもしれない。
二巻以降の書名はつぎのとおりである。
2 『ゴルの無法者』 Outlaw of Gor 1967 3 『ゴルの神宮王』 Priest-Kings of Gor 1968 4 『ゴルの放浪者』 Nomads of Gor 1969 5 『ゴルの暗殺者』 Assassin of Gor 1970 6 『ゴルの襲撃者』 Raiders of Gor 1971 7 『ゴルの虜囚』 Captive of Gor 1972
なお、本来ならここでバローズやE・E・スミスなどの古典的なスペースfオぺラとこの作品を比較して論じるべきところだろうが、訳者にはその能力がないので、巻を改めて適当な方にそういった観点からの解説をお願いしたいと思っている。作者ジョン・ノーマンの詳しい経歴も、そのときにあわせて紹介したい。
一九七五年十月
コメント
バローズ・タイプの代表格の一つである反地球ゴルシリーズの第1巻の解説だが、訳者の永井淳氏による、単なる感想となってしまっている。
まあほかに適格者がいるからということなのだろう。次巻ではその適格者、鏡明氏が詳しく解説されているので、そちらを読んでいただいたほうがファンにはいいのかもしれない。