エッセイ Essey for ERB's world


グリドリー・ウェーヴに乗って――作品横断設定の魅力

written by Hide

May 22,1997


 バローズの作品を読んでいて、ついにんまりとしてしまうときがある。それは、魅力的な登場人物に出会ったときでも、胸躍るロマンスに接したときでも、おもしろいストーリイにのめり込んでいるときでも、豊かな世界観に圧倒されているときでもない――そんなのは、バローズであれば当たり前のことだから――旧知の登場人物やエピソードがちらりと顔をのぞかせる、そんなちょっとしたお遊びが、バローズの作品には時折あって、何となくうれしくなってしまうのだ。
 ここで忘れてはならないのが『地底世界のターザン』(創元版では『ターザンの世界ペルシダー』)だろう。これこそはターザンとペルシダーという2つの主要なシリーズの合体編である。ターザンが、ペルシダーに乗り込む! バローズ・ファンならば、ここで興奮せずしてどこで興奮するというのか。20年前の小学生が東映まんが祭(マジンガーZとデビルマンの競演! グレート・マジンガーとゲッターロボが共に戦う興奮!)で得た感動と同種の思いが、ここに再現されることになる。
 さて、ジェイスン・グリドリー青年の登場である。ターザナ(バローズの農場がそのまま町になったという文字通りターザンの町だ)に住む彼はバローズの家に入り浸り(!)、一緒に新発見の通信波の実験をしているうちに、偶然、同時期に同じ波長(グリドリー・ウェーヴ――グリドリー波だ)を発見してそれで無線機を作った地底世界ペルシダーの老アブナー・ペリーとの交信を成立させてしまうのである(『戦乱のペルシダー』)。そこでわれらのデヴィッド・イネスが危機に陥ったと知るや、アフリカに飛んでターザンに救出隊の隊長就任を迫り、ついには飛行船を駆って北極経由で地底世界ペルシダーに乗り込んでいってしまう(『地底世界のターザン』)。〈地底世界シリーズ〉はつづく『栄光のペルシダー』『恐怖のペルシダー』ともにこのグリドリーとターザンの冒険の後日談なので、なんと全7巻のシリーズの過半数に相当する4巻に影響を与えていることになる。大したものである。
 グリドリー青年の活躍はこれだけにとどまらない。彼がペルシダー遠征中、留守を預かったバローズは、なんとグリドリー波で火星――バルスームと交信してしまうのだ! こうして、『火星の秘密兵器』は語られていく。さらに、ペルシダーから帰還後(ちなみにゾラムの赤い花は同行したのだろうか?)、ペルシダーに置き去りにされたフォン・ホルスト救出の知らせをバローズに告げに来たエピソードが、『金星の海賊』のプロローグで紹介されている。なんと、これで彼はバローズの主要4シリーズすべてに登場するという快挙を成し遂げてしまったわけだ。
 こうした例は他にもある。〈金星シリーズ〉のカースン・ネーピアはバルスームに向けてロケットを飛ばしたが計算ミスがあって金星に不時着してしまうわけだし、〈月シリーズ〉で登場する宇宙船はバルスーム号だ。シリーズもの以外でも、『石器時代から来た男』はターザンの別荘に遊びに行った若い男女が巡り会う冒険の話だし、同じ登場人物は『ルータ王国の危機』でも活躍しているといった具合。もう、たくさんあって数え切れないくらいだ。
 これらの背景には中だるみのシリーズもののテコ入れとかいった事情もなくもないのだろうが、結局のところはバローズのファン・サービスなのだろう。熱心なファンはどういったことに喜ぶのか、その辺のツボを、彼は心憎いほどに了解しているのだ。楽屋落ち、内輪受けといわばいえ。ファンは、これで間違いなく喜ぶのだ。前述のまんが祭り以外にも、ウルトラ・シリーズにおける兄弟競演とか、仮面ライダーが正月になると結集していたとか、楽しかった思い出は尽きずにわき出てくるが、驚くのはそれと同等の感性を70年も前に持ち得ていたバローズという作家の存在である。
 彼こそがエンターテイナー。結局のところ、それに尽きると思うわけなのだ。

END


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