ゲスト・エッセイ Guest Essey for ERB's world


地底王国に行った小学生

by jaco


 初めて読んだバローズは、ペルシダーシリーズだった。
 当時小学校の5年生か6年生だったと思う。
 もともとSF小説はあまり興味がなかったのだが、まわりにSF小説が好きな友人が多くて、僕に薦めてくれたのが早川のキャプテンフューチャーシリーズだったのである。
 そこからどんどんキャプテンフューチャーの世界にハマっていったのだが、
「コイツは結構SF小説がイケる口かもしれない」
 とでも思ったのだろうか。次に友人達が僕に薦めてくれたのがバローズだった。
 といってもその友人達も、バローズを全て読破していたわけではない。何せ小学生だ、月の小遣いなんてたかがしれているし、活字を読むスピードだってそれほど速いわけではない。
 しかしその友人達が、
「ジョンカーターがどーしたこーした」
「そうそう、デジャーソリスがどーしたこーした」
 と、こっちが読んでないのを知ってて、火星談義に花を咲かせているのは面白くなかった。
 いつも最後には、「ま、おまえはまだ読んでないからなぁ」と、トドメをさされていたのだ。
 これはとても悔しいが、だからといって人の後から火星シリーズを追いかけて行くのはしゃくにさわる。別に火星シリーズをどんどん読んでいけば良いのだが、その友人達は火星シリーズの5〜6巻目あたりを読んでいたので、僕としては誰も手を付けていないシリーズを読んでみたかったのだ。そこでおめがねにかなったのが、ペルシダーシリーズだ。
深い理由はないのだが、たまたま書店にあったので、といった感じだったと思う。
「ふっふっふ、まだ誰も読んでいないシリーズものだ、これでイバれるぞ」
 小学生の考える事だけあって少し浅はかではあるが、ある日曜日の午後、僕は記念すべきバローズ初体験の一歩を踏み出したのである。
 面白かったか? もちろん面白かった、とても面白かった。
 しかし読み始めてから、僕はだんだん妙な気持ちになってきた。
「この話って、どこかで見た覚えがある.... 」
 はっきり断定はできないが、最近見に行った映画に筋書きが似ているのである。
 その映画のタイトルは「地底王国」というものだった。

 当時僕が住んでいたのが、北海道は北見市というところ。
 ご存知ない方のために説明すると、あの健さんでおなじみの「網走番外地」で登場する網走のすぐそばとでも言えばよいだろうか。
 今はどうかは分からないが、当時は(今から約20年前)洋画を封切る映画館は確か2館だったと思う。うち1館は夏休み時期ともなると「昼は東映まんがまつり、夜はポルノ映画」という変則的な上映シフトだった覚えがある。今考えると結構むちゃな話だ。
 僕が「地底王国」を見たのはもう1館の方だったが、最初から「地底王国」を見たかったのではない。見たかったのは「グリズリー」という映画の方だった。映画にも流行があるが、1970年代は、何かというと動物が巨大化したり、人を襲ったりという映画が流行っていた。
 ご記憶の方もいらっしゃるだろうが、「グリズリー」は熊が人を襲う映画である。
 映画のポスターでは身の丈10メートルはあろうかというグリズリーが、焚き火の前に座っている女性の背後で、前足をくわっと広げて今にも襲いかかろうとしている物だった。
「これはすごいぞ、絶対に面白いに違いない!」
 という事で友達と見に行ったのだが、入場料は地底王国との2本立てで800円位だった記憶がある。今考えると相当に安い。
 しかし、グリズリーのストーリーはあまり覚えてはいない。ラストでバズーカ砲か何かでグリズリーを吹っ飛ばしてそれで終わりといった内容だったような気がする。
 しかもポスターと全然グリズリーの大きさが違うのが妙に気になったりした....
 そして同時上映だったのが「地底王国」である。(ちなみに僕はそれ以来地底王国を見る機会がなかったので少しうろ覚えなのだが)
 冒頭で、まさに機械モグラに乗り込もうとしているディヴィッドとペリーは英国紳士っぽい、洒落た身なりだった印象がある。これから探検に行くといういでたちではなかったような気がするのだ。映画の中では時代設定がいつになっていたのか分からないが、お金持ちの英国紳士が、道楽で地底探検にいくような印象を受けたものである。
 それにしてもサンダーバードの親戚みたいな機械モグラが潜っていく場面には、結構ワクワクさせられた。後で知ったのはこの映画がイギリス映画であったという事だ。
 イギリスの特撮はなかなか渋い魅力があるのだが、(サンダーバードしかり)その時は、
「あ、これ面白そう!」と、ぐぐっと引き込まれたのだ。
 そしてトラブルにより、機械モグラはどんどん地底に進んでいくのだが、着いたところのペルシダーは恐竜の親戚のような不気味な生物が生息する世界だった、ような気がする。登場する恐竜も、恐竜に少しトカゲのテイストが入ったような不気味な感じのするものだったし、マハール族も、何考えてるのか良くわからないようなグロテスクな造形だった。そして問題の? ダイアンなのだが、結構印象は強烈だった。
 何せキャロライン・マンローである。今となってはバローズのヒロインは武部画伯描く、少し東洋的テイストが入っているイメージが強い。
 これは日本人のバローズファンならば皆さんそうなのではないかと思うのだが。
 しかし、どちらかというと映画でダイアンを演じたキャロライン・マンローはセクシーダイナマイト系である。(表現が下世話で申し訳ないが、野生的とでもいうのだろうか) 子供には少し刺激が強すぎたかもしれない。
 ディヴィッドよりもダイアンの方に目が行っていたような気がするし.....
 ただ、コスチュームはヒョウの毛皮ではなく、きちんとした衣服に近いものだったような気がする。
 クライマックスはマハール族打倒のためにディヴィッドが活躍するのだが、わりと簡単にマハール族を倒してしまったような印象があった。
 もしかしたら記憶の誤りかもしれないが、力で押すのではなく自滅させるようなストーリーだったような気がするのだ。
 映画館から家に帰る途中で、この足の下に別の世界があるのかな? と思ったりもした。

 今回この原稿を書くにあたって色々と調べたのだが、いくつかびっくりした事があった。
 まず、ディヴィッド役のDoug McClureという人。この人は地底王国だけではなく、 The Land That Time Forgotにもボウエン役で出演していたのである。
 もしかしてバローズ映画の常連さんだったのだろうか。彼は今でも現役の役者で、最近ではメル・ギブソン主演の映画マーヴェリックにも出演していたようである。もっとも主要な役柄ではなく、ややエキストラに近いようなものらしいが、まだまだ現役なのである。
 さらにペリー役はピーター・カッシングである。これはすごい事だ。
 そして監督はKevin Connerという人。
 この人はなんと、スペース1999にもからんでいたらしい。SF映画やテレビのファンにとってはなじみが深い人なのかもしれない。
 この人も現役で頑張っているが、最近はSFモノはとんとご無沙汰しているようである。
 ダイアン役のキャロライン・マンローは007シリーズやB級SFモノで活躍していたので、その後もお目にかかる事が多かった。
 結果的に僕の中学校時代のフェバリット女優になってしまったのだが、原作のダイアンとはやはりイメージが違うような気がするのだ。先にも書いたが、それは武部画伯の描くヒロインがあまりにも強烈なイメージを持っていたからだと思う。
 海外のバローズ・ファンにも評判が高いという話を聞いた事もあるし、肌もあらわないでたちでありながら不思議と気品がある、というのはバローズの作品の雰囲気にマッチしていると思うのである。
 ふたたび20年前に話を戻そう。
 これは間違いなくこの前見た映画の原作本である、という確信を得たのは本の表紙を改めて眺めた瞬間であった。書店では表紙をあまり見ないでレジまで持っていったうえに、カバーが付けられたために表紙はずぅーっと隠れていたのである。
 そう、表紙はまぎれもなく地底王国からの流用であった。
 そして僕はカバーをはずして、再びディヴィッドやペリーとともにペルシダーでの冒険を続けたのだ。後にターザンや火星も読んだが、この時読んだペルシダーの第1巻目が僕にとって最もエキサイティングなバローズ体験だったのかもしれない。
 月並みな表現だけど、あれほどぐいぐいと引き込まれた読書体験はそんなにない、と今でも思うのである。

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