エッセイ Essey for ERB's world


野田昌宏氏に合掌

written by Hide

6 Jun.2008


 SF研究家で作家で翻訳家の野田昌宏氏(本名:宏一郎氏、昭和8年8月18日生)が2008年6月6日6時15分、永眠された。74歳。奇しくも没年齢はエドガー・ライス・バローズと一致する。武部本一郎、厚木淳に続き、またしてもわれわれは大切なものを失ってしまった。
 何度も書いているが、 わたしがSFを読むようになったきっかけは、中学の図書室で手にしたあかね書房版の野田大元帥訳『地底世界ペルシダー』を手にしたことだった。面白いと思ったり夢中になった小説はそれまでもあったが、その解説で続巻があることを知って書店を探したのが運のつきだったか。手にしたハヤカワ文庫版『地底世界ペルシダー』は当時中学2年生のわたしがはじめて買った大人向けの(!)文庫本。もちろん、引き続いて7巻まで、1500円だった毎月の小遣いから少しづつ買い揃えていった。それらは野田氏の訳ではなかったが、解説は野田節が響き渡る名調子。さらに7冊を読破したことでバローズの世界に引き込まれ、ペルシダー・シリーズの解説と著作リストを片手に太古世界シリーズ、火星シリーズなどを読破していった。
 それと平行して手を伸ばしたのが、アニメ化の情報が伝えられつつあったキャプテン・フューチャー。訳者が野田昌宏、というのが動機付けでなかったはずがない。やがて、野田昌宏を探してハヤカワ文庫の棚をあさるようになっていた。ジェイムスン教授、スターウルフ、銀河辺境シリーズ、第2銀河系シリーズ……。銀河辺境シリーズの表紙を下にしてそっと書店のレジに出していたのは、今となってはほほえましいエピソードだが、いい思い出といっていいだろう。
 SF英雄群像もその当時のバイブルだった。スカイラークもレンズマンも、野田氏編纂によるスペオペのアンソロジーや、創元から出た惑星間の狩人なども、そのバイブルを傍らに読んだのだ。
 20代のころ、一度氏には会っている。といっても覚えてももらえていなかっただろう。地元の友人が企画した合宿イベント、ノダクルゼに参加し、言葉も交わしたが、憧れのアイドル――顔のきれいな芸能人ではなく、文字通りの偶像――を前に、一番ききたかったことは聞けず、結局旧知の仲間たちと語り明かしてしまった。後悔先に立たずだが、それもまたいい思い出なのかもしれない。
 ある時期から野田氏はバローズのことをあまり語らなくなっていた。ブレークしていたころは、そこら中にコメントや解説を寄せていたのにだ。バローズといえば創元の厚木淳になったことで、早川書房と縁の深い野田氏のバランス感覚が働いたのだろうか。しかし、晩年は創元からも本を出していたし、だからこそ、復刻された合本版の火星シリーズから野田氏の解説が消えていたことが残念だった。

 このホームページに収録した多くの氏の原稿に関して、結局ついに、正式な許可を得ることもできなかった。いやそれよりも、バローズや他のスペオペなんかの事をもっと聞きたかったのに、2度とかなわなくなった。
合掌、そして涙。

Homepage | 語りあおう