Illustrated by Motoichiro Takebe
創元推理文庫刊『火星のチェス人間』より
こうしたことに興味のある方、そしてこのゲームをやってみたいという方のために、わたくしがジョン・カーターから聞いたジェッタンのルールをご紹介しよう。それぞれの駒の名称と動きを紙切れに書いてふつうのチェスの駒に貼りつければ、このゲームは、火星で用いられている装飾をこらした駒を使った場合と同じようにプレーできよう。
交互に黒とオレンジの正方形の目、百からなる四角い盤。駒の配置は以下の通り。
戦士 | 士官 | 隊長 | 飛艇 | 王将 | 王女 | 飛艇 | 隊長 | 士官 | 戦士 |
馬 | 放浪 | 放浪 | 放浪 | 放浪 | 放浪 | 放浪 | 放浪 | 放浪 | 馬 |
馬 | 放浪 | 放浪 | 放浪 | 放浪 | 放浪 | 放浪 | 放浪 | 放浪 | 馬 |
戦士 | 士官 | 隊長 | 飛艇 | 王将 | 王女 | 飛艇 | 隊長 | 士官 | 戦士 |
戦士(ウォリアー) 羽飾り二本。どの方向へもまっすぐ、または斜めに二目、またはコンビネーション 士官(バドワール) 羽飾り二本。どの方向へも斜めに二目、またはコンビネーション 隊長(ドワール) 羽飾り三本。どの方向へもまっすぐ三目、またはコンビネーション 飛行艇(フライヤー) 三枚翼のプロペラ。どの方向へも斜めに三目、またはコンビネーション。
途中にある駒をとび越すことができる。王将(チーフ) 宝石十個つけた王冠。どの方向へも三目、直進、斜め、またはコンビネーション 王女(プリンセス) 宝石一個つけた宝冠。動きは王将と同じ。ただし、途中にある駒をとび越すことができる。 馬(ソート) 羽飾り二本の戦士が乗っている。二目のうち一目はまっすぐ、一目はいずれの方向へも斜めに。 放浪の戦士(パンサン) 羽飾り一本。一目前、左右、または斜め。ただし後退はできない。
ゲームはいっぽうの競技者が黒の駒20を、そして相手がオレンジの駒20を持っておこなわれる。本来は、南極の黒色人と北極の黄色人との戦闘を表わすものである。火星ではふつう、盤面は黒駒が南側、オレンジ駒が北側からプレーされるように配置される。
敵の王女(プリンセス)と同じ目に味方のどの駒でもはいった場合、あるいは敵の王将(チーフ)を味方の王将(チーフ)がとった場合は勝ちとなる。
王将(チーフ)が、敵の王将(チーフ)以外の駒でとられた場合は引きわけ。また、双方とも持駒が同格の駒3個ないしそれ以下に減ってから、各5手ずつ、計十手で勝敗が決まらぬ場合は引き分け。
王女(プリンセス)は敵の駒から脅かされている目へ動くことはできないし、また敵の駒をとることもできない。ただし、ゲームのあいだ任意のときに一回だけ十目動く権利がある。この動きは〈エスケープ〉と呼ばれる。
ゲームの最後の指し手で王女がとられる場合をのぞけば、二つの駒が同一の目を占めることはできない。
片方の競技者が適切に、かつ順序正しく自分の駒を敵の駒が占める目に置いた場合、敵の駒は殺されたものと見なされて、ゲ一ムからのぞかれる。
駒の動きを説明すると、まっすぐな動きとは真北、真南、真東、真西を意味する。斜めの動きとは、北東、南東、南西、北西である。コンビネーションの動きを例にあげて説明すると、隊長は北に三目、まっすぐ動く場合もあれば、北に一目と東に二目、または同様なコンビネーションでまっすぐ動く。ただし一回の動きで同一の目を二度、越えてはならない。
先手は競技者双方の協議で、どう決めてもよい。一ゲームが終われば、勝者は望むならば次のゲームの先手をとってもよいし、また相手に先手をとらせてもよい。
ジェッタンにおける火星人の賭には、いくつかの方法がある。むろんゲームの結果によって、主要な賭金の帰属が決まるのであるが、おのおの駒の価値にしたがって、それぞれに値段をつけ、駒を失った数に応じて、それに相当する額を相手に払うというやりかたもある。