川又千秋 著/巽孝之 解説/早川書房/ハヤカワ文庫JA179/1983.11.30初版/258頁
story/あらすじ
“夢の言葉”とは、無意識の中でのみ使用可能であるような言語以前の言葉、象徴言語といったような意味であり、“言葉の夢”は、言葉がその固有の構造、結びつきによってだけ生みだせる反現実的世界を示す――SFファンにはおなじみのJ・G・バラード、エドガー・ライス・バローズ、C・L・ムーア、レイ・ブラッドベリから島尾敏雄、ボリス・ヴィアン、ルイス・キャロル、ホルヘ・ルイス・ボルヘスなどまでのはば広い作品の中から幻想のエッセンスを抽出し、作家川又千秋のSFグラフィティをあきらかにした日本SF評論史上の記念碑的作品
chapters/もくじ
まえがき
第1節1 幻を見る人々第2節
2 転落の敷居・壁のない穴――ウィリアム・ホープ・ホジスン第3節
3 言葉でないもの――C・L・ムーア第4節
4 空まわり分割――エドガー・ライス・バロウズ第5節
5 包囲第6節
6 オー・ノオ!――J・G・バラード第7節
7 オー・ノオ!(その2)――麻丘めぐみ展覧会第8節
8 作用について島尾敏雄第9節
第10節
第11節9 鉄腕アトムの子ら――ボリス・ヴィアン、その他の思い出話第12節
10 王国――ルイス・キャロル第13節
11 たんぽぽ白書――レイ・ブラッドベリ第14節
12 たんぽぽ白書(その2)――レイ・ブラッドベリ第15節
13 少年哀歌集――岡本おさみからハンス・ヘニー・ヤーンへと第16節
14 運命――ホルヘ・ルイス・ボルヘス第17節
0 水準器人名索引
書名索引
history/初出
早川書房発行「SFマガジン」1973年9月号〜1975年2月号連載
奇想天外社刊 1981年8月
comment/コメント
川又千秋のデビューとなった、SFマガジンの連載をまとめたもの。きわめて私的なSFをキーワードにした幻想小説論が、自分のみがわかる、酔いしれた文体で紡ぎだされている。ある意味では非常に読みにくい、別の意味では強烈な共感と何かしら惹きつけるものを持った、ふしぎな本である。ただ現在では私的に過ぎてついていけない人の方が多いのでは。SFがまだマニアだけのものだった幸せな時代の、最後の時期が生んだひとつの成果なのだろうか。
ここで取り上げているのは、もちろんバローズに1章をさいているからだが、それだけでは独立しておらず、前後の章も合わせて読まないと(さらには川又千秋の経歴やそのた私的な情報もある程度は頭に入れておかないと)よく意味が分からない構成である。
私的の私的たるゆえんがここにある。