東京創元社刊『火星の巨人ジョーグ』より転載
Oct.1968
バローズの火星世界バルスームを地図にしてみようという試みは、すでにいくつもなされており、F・J・ブリュッケル、マイク・レズニック、R・H・シュラッターなどによって試みられたものが有名である。
地底世界ペルシダー・シリーズの場合は、バローズ自身で地図をあらかじめ作成して、これをもとに執筆しているので地理的にもかなり正確に記述されているが、火星シリーズについてこの種のものをバローズがつくっていたかどうか、今日のところではまったく知られていない。
前記三人の地図を比較検討してみると、レズニックのものがもっとも実用的にできてはいるが、不満な点がないわけではない。
それに、原文の中にもかなりのくいちがいがある。本家本元のヘリウムの位置にしてからが、『火星のプリンセス』の249ページでは「ゾダンガの南西1,000マイル」とあるのに対して、『火星の透明人間』の16ページでは「ゾダンガは……中略……ヘリウムの双子都市の東方1,900マイルあまりのところにある」といったぐあいである。これをどう解釈するかによって、その地図は大幅に変わってしまうのである。ここに掲げた火星地図は、わたしが前記三人のものをいっさい参照しないで、本文庫の記述をもとにつくったものだが、わたしは、このヘリウムのくいちがいの場合、前者は火星にきたばかりのときだし、後者は火星に住みついて20数年(途中に10年のブランクはあるが)も経ったあとの記述だから、こちらの方により大きな信慂性があると判断して、これを採用している。さて、そこで、ヘリウムは南緯30度東経172度にあるゾダンガから東に1,900マイルということになるとして、地図上の1マイルは火星の赤道上でどのくらいの長さになるか? これについては『火星の幻兵団』の92ページに火星の度量衡単位が載せられている。これによれば、火星緯度の1度は1カラド、つまり100ハアドにあ
たり、1ハアドは地球上の2,339フィートにあたるというから、概算してみると、1カラドが約47マイルほどの計算になる。したがって1,900マイルとなれば約41カラド、すなわち東経131度にあたることになる。
ジョン・カーターによる地理上の勘ちがいは、困ったことに、経度の原点、いわばグリニッチの所在についても起きている。たとえば『火星の幻兵団』の188ページでは「経度の基点は古代バルスームの文化と学芸の中心地。いまは廃墟と化した都ホルツである」と書きながら、『火星の古代帝国』の14ページでは「バルスームの本初子午線基点エクサム」の記述があり、ホルツに関しては99ページと104ページから、ガソールの北東4,000ハアドということになり、ガソールの位置が『火星のチェス人間』の25ページでは「ガソールは火星赤道(ポロドナ)から北へ10カラッド、ホルツの西第10カラッドから第20カラッドにわたり…」とあってまことに奇怪なことになる。創元版ではホルツの註として火星の廃都、グリニッチにあたるとあるが、原文にこの註はない。しかし、この註は当然のことであって、あきらかにこのホルツとエクサムの混同はジョン・カーターないしはバローズのミスである、これも、後半において原点をエクサムとしているところから、こっちの方を尊重することにした。いちいち説明するのも煩雑なのであとは図を見ていただこう。
バルスーム全土(赤道付近) | |
南極地方 | 北極地方と衛生サリアの一部 |
()内の○数字は火星シリーズの巻数を示す。
注
10ソファド=1アド(1ソファドは1.17インチに相当する)
200アド=1ハアド(1ハアドすなわち1火星マイルは2,339フィートに相当する)
100ハアド=1カラド
360カラド=火星赤道円周(1カラドは火星緯度の1度に相当)