加藤直之といえば日本SFアートの騎手として華々しく登場し、リアルなメカニズムの描写等でそれ以前のSFイラストを一気に陳腐化させてしまったタレントの持ち主である。銀河辺境シリーズのイラストがその好例で、図解口絵の見事さは他に類例をみない。反面、人物描写はイマイチで、特に男性は銅像のようだったが、それもだんだんと柔らかくなってきて、ターザン・シリーズでも何冊かこなしてのちは(武部本一郎の陰をふるい払えたのかもしれないが)かなりいい絵を描いている。
そうはいっても加藤氏の絵の中に武部本一郎の強い影響を見ないわけにはいかない。人物画や白黒イラスト等でのその筆致、色使いに顕著に見られる傾向として、それはある。『呪われた密林』のターザンの横顔などは武部のコピーだといってもいいくらい。もっとも武部氏がイラストを担当していたのと同じシリーズだから、配慮して似せたのかもしれないのだが。他にも創元推理文庫のゴル・シリーズなど、武部からバトンタッチされたシリーズ・イラストもいくつかあるが、そのいくつかには独自性を出そうとして出し切れず、雑な印象だけが残っているという感がある。これなどは武部氏を意識しすぎてのことだろうが。
これは、武部本一郎という大天才と比較するのがかわいそうなのかも。さすがに後年は技術の進歩とともにオリジナリティを発揮していて、なかでも特筆すべきはアパッチ・シリーズ。デザイナーによってレイアウトされたということもあるが、かなりいい絵を描いている。
ただし、ファンタジー・アートの方ではグイン・サーガなどに象徴されるように、天野嘉孝に完全に淘汰されてしまった。人物のかきわけにも個性が乏しいので、やむを得ないところかもしれない。