ERB評論集 Criticsisms for ERB


高橋豊「ターザンと子供たち」

ハヤカワ文庫特別版SFターザンの双生児解説より


 この小説はいわば二部作で、第12章までの第一部は Tarzan and the Tarzan Twins という題名で1924年に出版されました。そして第二部は12年後の1936年に発表され Tarzan and the Tarzan Twins with Jad-Bal-Ja the Golden Lion という長い題名がつけられていました。
 バロウズのターザン・シリーズは巻を追って非常な人気を呼び、若い世代ばかりでなくあらゆる年層にわたって広く読まれていたのですが、バロウズは出版社からの依頼もあって、特に若い世代向きにこれを書ぎ下ろしたといわれています。ドックとディックという若いいとこ同士が学校の体眠を利用して、未知の暗黒の大陸へ口検旅行へ出かけるという書き出しではじまるこの小説は、シリーズのほかの作品と連って、ターザンがほとんど登場せず、二人の少年がかれの分身として活躍するという異色作になりました。
 第一部はいわゆるジャングルもので、題材としてはほかの同種の作品と大差ないのですが、二人の分身を便ったためにおのずから趣の異なったサスペンスが生まれ、ストーリーを面白くしている点が特徴になっています。
 第二部はそれより12年後に書かれ、ターザン・シリーズはすでに秘境ものへ移っていましたので、第一部よりファンタスティックな調子がやや濃くなり、オパルを追放されたゴリラマンが登場するわけですが、基調はやはりジャングルものになっています。
 先に述べたようにこの小説ではターザンはほとんど登場しませんが、二人の少年の分身といっしよのせいか、いつも孤独なターザンの影が少し薄らぎ、野獣的な性格も和らいで、ヒューマニストの温かみが増している感じがします。ターザンという人間設定の矛盾した面がちよっと顔をのぞかせているようです。


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