創元推理文庫「海賊の世界ペルシダー」解説より
May.1975
ペルシダー・シリーズの第2巻「翼竜の世界ベルシダー」を発表してから実に13年間の中断を経て、ERBは第3巻の本書を執筆した。それは1928年のことで、翌1929年に「ブルーブック」誌に連載され1930年に単行本として刊行された。
本編の主題は、突如、ペルシダーの海域に出現した強力な海賊、コルサール族の謎である。地上世界の百万年前に相当する石器時代のペルシダーに、かくも近代的な帆船と火器を装備した部族が存在するのはいかなる理由からであろうか? 彼らは、いつ、どこから、ペルシダーへやって来たのか? 作者バローズは詳述しないが、むろん15章でイネスたちが発見した氷の海、つまり北極にある地底への開口部を通って地底世界へ到達し、そこに永住したにちがいない。時代は17世紀ないし18世紀であろうか。海賊ということばは英語では
Pirate, Buccaneer, Freebooter 等いろいろあるが、その一つに、本来は回教徒の私掠船を意味した
Corsair がある。このコルセアが訛ってコルサール Korsars になったというのがおそらく作者の設定と思われる。また、その統領の称号のエル・シドとは、11世紀スペインに実在した英雄的騎士の、これまた称号である。
作者が本編を脱稿したのは正確に記すと1928年11月21日だが、今度は間をおかず翌月の12月6日につぎの「ターザンの世界ペルシダー」に着手している。カリフォルニアの無電技師ジェイスン・グリドリーとジャングルの王者ターザンがヒーローの座をわけあって、エル・シドの宮殿の地下牢に幽開されているディヴィッド・イネスの救援に向かうという趣向である。地底世界シリーズも、これから毎巻登場するヒーローとヒロインの大活躍によって、ますます佳境にはいっていくわけである。
注:この文章は厚木淳氏の許諾を得て転載しているものです。