ERB評論集 Criticsisms for ERB


厚木淳「バロウズ・ファンとは武部ファンのことである」

スターログ武部本一郎の剣と魔法世界より

Jan.1980


 イアン・フレミングの“007シリーズ”を刊行する時、これは大人の紙芝居だなと思ったが、バローズの“火星シリーズ”の刊行を決めたときは、紙芝居を実現して大人の絵本に仕立ててやろう、というのが当初からの狙いだった。今流にいえば、SFの視覚的効果に期待したということになろうか。
 何しろそれまでの文庫本といえば、各社ともアブストラクト系の比較的地味なカバーばかりだったから、本文に挿絵をつけ、カバーと口絵にも多色刷りのイラストを使うというのは、かなり大胆な発想だった。編集者として一番危惧の念を抱いたのは、店頭で児童読み物とまちがえられはしないか、という点にあったのだから、今にして思えば隔世の感に堪えない。
 武部先生にお願いすることに決めたのは、児童読み物のイラストを渉猟した結果だった。先生は言下に快諾してくださり、こうして出来上がったのが第1巻“火星のプリンセス”の華麗なイラスト――14年前のことである。そしてバローズの作品の日本語版はこれ以降すべて武部イラストで飾られることになったから、日本のERBファンはイコール武部ファンということになるだろう。
 海外の反響を教えてくれたのは野田昌宏さんだ。野田さんが創元推理文庫版の“火星シリーズ”を、アメリカのSF研究家たちに送ったところ、H・H・ヘインズやC・カサドジュといった錚々たる大家たちが武部イラストを絶賛してA・セント・ジョン、ロイ・クレンケル、F・フラゼッタ等、バローズ作品を手がけた本国の画家たちにまさること格段という手紙をよこしたという。バローズ、もって瞑すべし、か。
注:この文章は厚木淳氏の許諾を得て転載しているものです。
また、武部本一郎氏の絵は権利者である夫人・武部鈴江さんの許諾により転載しています


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