ERB評論集 Criticsisms for ERB


野田昌宏「ペルシダー百科事典編纂への挑戦」

ハヤカワ文庫SF危機のペルシダー解説より

Feb.1971


 ERB――バロウズ・ファンの慣例にしたがってこう略させていただくが、とにかく、このERB(エドガー・ライス・バロウズの頭文字をつないだもの)が御存知〈ターザン〉をはじめとする諸作を執筆するにあたって、実にさまざまな言葉を創造していることはいまさら申しあげるまでもない。それも人名、地名はもちろんのこと、一般名詞から動詞、形容詞、はては度量衡にまでおよんでいる。そこでこれらの言棄――エテ公、火星人、金星人、地底人、etc、 etcの言葉をはたしてその読者がどこまでマスターしているかによって、そいつのERBにたいする入れあげかたもわかろうというものである。
 たとえば――
 このハヤカワSF文庫の『地底世界ペルンダー』の62ページから63ページを開くとこんなところがある。

  ――醜男ジュバルはわたくしの父の家の前に戦利品を置きました。大きなタンドールの首です。……中略……以前はそうだったのですが、サドクが父をふり落したので……中略……マハール族のこういうところはシプダールににている、とか、またああいうところは毛のないリディににているとかいったふうに……以下略……

 これなんぞは、タンドールとかサドクとかいう固有名詞の意味がわからないかぎり、それこそちんぷんかんぷんで、いくら読んでみたとてちっともおもしろいわけがない。字引なんかひいても出てはいない。もちろんページのあちこちをひっくり返してみれば、(それも全巻をである!)かならずどこかにその言葉の説明があるのはたしかだが、いちいちそんなことをやっていたんじゃあ能率半減、めんどうくさくてしかたがない。だれか〈火星語辞典〉や〈ターザン百科〉をつくろうというやつはいないか――てなことになってくるのは理の当然であろう。
 そこで、そんな利器を利用したとするとさっきの文章はこんな風に明快になってくるわけだ。

 ――醜男ジュバルはわたくしの父の家の前に戦利品を置きました。大きなマンモスの首です。……中略……以前はそうだったのですが〈先史時代に地球上にいたリノセラスというサイの先祖みたいな怪物〉が父をふりおとしたので……中略……マハール族のこういうところは〈先史時代に地球上にいたプテロダクテイル(翼手竜)に似たやつ〉に似ているとか、またああいうところは毛のない〈先史時代に地球上にいた恐竜の一種ディプロドクスみたいなやつ〉に似ているとかいったふうに……以下略

 そんなわけでわたしは、敢然として〈ペルシダー百科〉の編纂に立ちあがった!まず第1回は題しまして〈ペルシダー動物づくし〉。ところがいざ手をつけてみると結構てまがかかり、デッドラインを大幅にすぎてしまい、担当の編集部S女史の柳眉がさかだつのを身の毛もよだつ思いで想像しながらの悪戦苦闘の連夜というわけである。
 ところでERBの設定したペルンダー世界が、地球表面における中世代の様相を呈していることはいまさらいうまでもないが、うるさいことをいうとこれが白亜紀、ジュラ紀おかまいなし、地表では約一億年の間に次々とあらわれたやつがペルシダーでは一堂に会して大活躍、そこにまた蛇人間だとかなんだとかがからんでなおさらややこしくなるのだが、もしもその気なら古生物の図鑑でもさっと眼を通してプテロダクテイルとトリケラトプスのちがいくらいは頭に入れておくと一段とおもしろくなるはずである。念のため。


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