講談社 火星シリーズ10『火星の地底王国』解説より
Jul.1967
「『火星シリーズ』っておかしいな。飛行艇なんかをのりまわしたりする火星人が、まるで土人みたいにすっぱだかで、刀をふりまわしたりするんだからなあ。」──あなたも、そんなことを考えたりはしませんでしたか。「ぼくたち地球人は、飛行機なんかを発明するよりもずうっとむかしから、きちんと服をきていたし、あんな野蛮な刀をぶらさげてあるいたりはしていないのに……。」
たしかに、そのとおりですね。
それにはまず、バローズがどうしてそんな火星の世界をつくりだしたのかを考えてみる必要があります。そうするとぎゃくに、バローズがこの「火星シリーズ」をとおして、いったいなにをみなさんにいいたかったのかがはっきりしてきます。これはいろいろに考えられると思いますが、たとえば、すばらしい科学をもっているくせに、はだかで刀をふりまわしたりする火星人については、「地球人は、いつもきちんと洋服をきて、科学文明をもっているなんていうけれど、ほんとうに勇気が必要なときになって、もしも自分のほうがあぶないなと感じると、こそこそにげていくようないくじなしが多すぎる。」バローズはそう考えたのではないでしょうか。
「かっこいい洋服などはどうでもいい。そのかわり、わるいやつをたおすためなら、弱いものを助けるためならば、ありったけの力を出してぶつかってほしい。それが男というものだ。」
火星人のふりまわす刀には、そんな意味がふくまれているのかもしれません。
「火星シリーズ」に出てくる女の人は、みんなすばらしく美しいですね。まあ、「火星の頭脳交換」に出てくるザザだけはべつとして……。そしてけなげな勇気の持ち主ばかりです。これなんかでもバローズは、地球の女の子が、ちょっとしたことで、すぐにめそめそするのを、もっと強くなってほしいと思ったのかもしれません。だけど、それだからといって、男みたいにあらっぽくなってはこまる。やはり、しとやかで美しくあってほしい。これが火星の女として出てきたのかもしれません。
すごい怪物が、つぎからつぎへと出てきましたが、それもこんなふうに考えることができます。
世の中のわるいやつが、はらの中で考えていることを絵にかいてみると、あんなものすごくていやらしい怪獣になるといえないでしょうか。もしそうだとしたら─―そう。にげてはためだ。力いっぱいたたかうのだ。そして、怪獣を一ぴきのこらずやっつけてしまおう。
バローズは「火星シリーズ」をとおしてそういっています。
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講談社版第10巻のの解説文全文収録です。
講談社版では第11巻は刊行されなかったので、本書が最終巻ですが、野田さんの筆は相変わらずのっていません。ただ、本文以上に子供向けを意識した解説にすることで、他の巻とは少し違う、メッセージ性はあるかもしれません。