ERB評論集 Criticsisms for ERB


大久保康雄
「密林の王者」

ロビン・ブックス27密林の王者ターザン ターザン物語


 『ターザン物語』は、アフリカの大密林を背景に、類人猿に育てられた自然児ターザンが、おそろしい猛獣をつぎつぎにたおして密林の王者となり、文字どおり血わき肉おどる大活躍をするすばらしい物語として、世界じゅうの少年少女からしたしまれてきていますが、わが国では映画の「ターザン」が有名で、きいきんまで原作の「ターザン」があることはあまり知られず、紹介もされていませんでした。私はずっと以前からターザン物語の原書を十数冊手に入れ、ひそかに愛読していたのですが、こんどロビン・ブックスとして皆さんに紹介できる機会をえたことを心からうれしく思っています。
 『ターザン物語』の原作著は、エドガー・ライス・バローズというおじさんで、1875年米国シカゴ市に生まれました。家が裕福だったので幸福な少年時代をすごし・ミシガン陸軍士官学校を卒業後、軍務につきましたか、まもなく軍人をやめ、それから15年間ほどは、いろんな職業を転々としましたが、どれもうまくいかず、ひどい貧乏生活をつづけなければなりませんでした。
 生まれつき空想力にすぐれていたバローズおじさんの頭のなかで、ターザンの物語がつくられかけたのはそのころのことで、さいしょのターザン物語が、『類人猿ターザン』という題名で出版され、すばらしい評判を呼んだのは、1914年のことでした。ターザンの名は、たちまち有名になり、それからバローズは、つぎつぎとターザン物語を書き、今日では数十冊に達しました。アメリカだけでなく、その後30年間に、50数カ国語にほんやくされ、世界じゅうの少年少女、いや大人までが夢中になって愛読しています。
 ここにご紹介する『密林の王者ターザン』は、原題を『ターザンと金色のライオン」(Tarzan and the Golden Lion)と言い、1932年に発表された作品で、ターザンもののなかでもとくにおもしろい、代表的作品といわれています。
 生まれたばかりの赤ん坊のときから、人跡未踏の大密林で、類人猿の群れのなかで成長したターザンは、獣たちとジャングルをさまよい、彼らとまったくおなじ生活をして大きくなるのですが、ターザンをして百獣の王、密林の王者たらしめたものは、いったいなんだったでしょうか? それはけっきょく、白然児ターザンのうちにめざめてきた人間の理性や知能の力だったと、作者は言っています。
 バローズ氏は、ことし70の坂を半ば越えるおじいさんですが、今も元気で米国南カリフォルニア州のいなかに住んでおり、そこの町には、ターザンにちなんで、夕ーザーナ局という名の郵便局ができているほどの人気を集めているということです。

1955年初冬

大久保康雄


comment

 奇しくもおなじ市内にお住まいの、おそらくは日本でも有数のターザンマニアの大野さんにお貸しいただいた1冊で、"Tarzan, Lord of the Jungle"の翻訳版はこの河出書房版しかないと思われる。日本を代表する翻訳家のひとりである大久保康雄氏がターザンをひそかに(このひそかに、というのがミソだ)愛読していた、というのはほほえましいエピソードだが、できれば堂々と評価していただきたかったと思う。
 解説中の大きな間違いは、まず『ターザンと金色のライオン」(Tarzan and the Golden Lion)だといっていることで、もちろん正解は"Tarzan : Lord of the Jungle"。
 そしてもうひとつは、70歳代後半でもバローズが生きているというのはとんでもないことで、1950年に没している。

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