Illustrated by Hiroyuki Mutoh
大久保康雄:訳/武藤弘之:画/大久保康雄:解説 河出書房/ロビン・ブックス27/1955.11.25初版/P230
story/あらすじ
アラビア人イブン・ジャッドの隊商は弟トログと部下ジャードのわるだくみ、部下ゼイドと娘アテジャの恋愛など内に問題を抱えながら、財宝と美女の秘境ニムダを目指している。アメリカ人スティンボルとブレークもまたアフリカの地を進んでいたが、スティンボルの傲慢さにブレークや荷役の黒人たちが反発し、隊を割ることになる。
突然の雷で隊とはぐれたスティンボルはアラビア人の隊商に、ブレークはニムダに迷い着く。ニムダは十字軍遠征中に遭難したリチャード獅子心王の配下たちが独自に築いた峡谷の城塞で、数百年もの間、サラセン人に対抗すべく生きながらえていたのだった。ブレークはそこで騎士サー・リチャードと親しくなり、騎士として力を発揮していく。また、城主の娘ギノーダ姫に恋心を抱く。同じく十字軍の末裔であるセパルチア城の騎士たちとの恒例の競技会に出場し、活躍するブレーク。
そのとき、イブン・ジャッドは奴隷ウララの生誕地ガラの村長に教えられ、ニムダに到着、無人のセパルチア城を落とし、さらにニムダ城を狙う。競技会はニムダ城の勝利となるが、セパルチア城のボーハン王はギノーダ姫を略奪し、逃亡する。ブレークはそれを追い、単身姫を奪回するが、偶然遭遇したアラビア人に奪われてしまう。
アラビア人側では反逆に失敗したジャードがスティンボルとギノーダ姫を連れて逃走。そこにさらに類人猿の群があらわれてギノーダ姫を争う……。ニムダに到着したターザンは、無事事態を解決できるか?
chapter/目次
character/登場人物
ターザン ジャングルの王者。英国貴族グレイストーク子爵ジョン・クレイトン。ワジリ族の酋長でもある。 フェジュアン(本名ウララ) ガラ出身の黒人奴隷の頭。子供の頃エル・ハバシュからさらわれ、イブン・ジャッドの奴隷となった。 イブン・ジャット アラブ人エル・グァド族の頭目。財宝と美女略奪のため、エル・ハバシュにあるという伝説の都ニムルを捜している。 トログ イブン・ジャットの弟。悪だくみをしている。 ゼイド アテジャと恋に落ちたアラブ人の青年。アテジャに好意を持っている アテジャ イブン・ジャットの娘。ファードと結婚させられそうになっている。 ハーファ イブン・ジャッドの妻 ファード アラブ人。イブン・ジャッドの一行。トログと悪だくみをしている。フランス語ができる。アテジャの婚約者。 モトログ イブン・ジャッドの一行。 アバス 黒人。フェジュアン同様、子供の頃からイブン・ジャッドの奴隷。 アブド・エル・アジズ イブン・ジャッドの一行 トヤット ターザンがいた巨大類猿人種族のかしら ムワラット トヤットの群れの類人猿 ガヤット ズソ ゴヤッド トヤットの群れの類人猿。トヤットとギノーダ姫を奪い合う。 ジェームズ・ハンター・ブレーク アメリカ人青年。野獣の生態の撮影のためにスティンボル隊に加わってアフリカにきた。 ウィルバー・スティンボル ニューヨークのスティンボル証券会社社長。ブレークのサファリの隊長。短気で傲慢でわがままな嫌われ者だが悪人ではない。 サー・リチャード・モンモラシー ニムルの騎士。ジェームズを助ける ピーター・ウィッグス ニムルの衛兵。黒人。 パウル・ボドキン ニムルの衛兵。黒人。リチャードの部下。 マイクル 少年。リチャードの従者 エドワード 少年。ブレークの従者 サー・マラド ニムルの騎士。ギノーダ姫の婚約者。 ゴバード侯 リチャード獅子心王の部下ゴバードの子孫。ニムル城の城主 ブリニルダ妃 ゴバード候の妻 ギノーダ姫 ゴバード候の娘。絶世の美女。ブレークに好意を抱く。 サー・バートラム ニムルの騎士。ターザンがニムルに入場するのを案内した。 ボーハン王 リチャード獅子心王の部下ボーハンの子孫。ニムル城の仇敵、セパルチア城の城主。ギノーダ姫に横恋慕する。 サー・ガイ セパルチア城の騎士。ブレークと馬上試合をおこない、敗れる。 サー・ウィルドレッド セパルチア城随一の騎士。ブレークと馬上槍試合をおこない、相打ちになる。 サー・バランド セパルチア城の守備隊指揮官をつとめる老騎士。 モーレイ セパルチア城の衛兵。 パーシヴァル セパルチアの騎士。 タボ ガラ族の黒人。ウララの兄 バタンド ガラ族の村長 ジャド・バル・ジャ 金色のライオン。ターザンの親友。
history/初出
Tarzan,Load of Jungle,Dec.1927
Tarzan,Load of Jungle,1928
comment/コメント
長らく未訳と思われていた作品だが、思いもかけず、翻訳の存在を確認することができました。50年来のファンである大野さんのご協力によります。非常に貴重な本で、もはやなかなか手に入らないと思います。今後、新訳の可能性も低いでしょうから、これが唯一、ということになるのでしょう。
というわけで、独自に詳細なあらすじと登場人物表をつくってみました。まず感想をいうと、これは面白い! さすがバローズ! なのですが、物語作家としての盛り上げのうまさなどをおいておいて、ストーリーに目を転じると……あらすじを読んでいただければおわかりのように、どこにターザンがいるのかわからん。いや、実際は節目節目にターザンはキーパースンとして登場して、ストーリイをすすめていく役割を演じているのですが、エピソードの中心として活躍する場面はほとんどないというのが実態です。
好男子ブレークと嫌われ者スティンボルの一行、ブレークを中心としたニムダ城の物語、イブン・ジャッドの隊商の内部のごたごた、その奴隷ウララの故郷の物語、さらにはターザンの育った類猿人たちのはなしと、いくつものエピソードを細切れに(カットバック手法で、というべきか)語りながら徐々に終盤へむけて合流させていき、最後にターザンがけりを付けるという、まあ定番の展開とはいえ、ひとつひとつのエピソードはもう少し書き込んで欲しい気がしてなりません。
いっそ、ブレークとニムダ城のエピソードだけにすれば、『密林の謎の王国』のような物語になって楽しめたんじゃないかと思うんですが。ヒロインであるはずのギノーダ姫は絶世の美人でブレークに好意を持っている以外は「わがままで思いやりがない」とまで書かれてて、そんな女のために野生動物の生態を写真や映画で残したい、といった具体的な夢を持ったアメリカ人青年が秘境の城に留まるものでしょうか。ちょっと違和感を感じます。白人は死なない、という点にも人種差別を感じるしね。
ただ、この原題「Tarzan,Load of Jungle」の意味は分かりました。このLoadは王者、といった意味だけではなく、英国騎士の末裔であるターザンを示しているのですね。700年もの間、来もしないサラセン人を待って変質した騎士道にブレークが、ターザンが、これこそ真の英国騎士道なのだよとあらわれる。その部分が主題なんでしょうね。
物語として整理されていないとか、ヒロインはじめ書き込みがあまい、といった批判はありつつも、総体として面白い物語になったのは、一級のエンターテインメント作家であるバローズの手腕はもちろんですが、そうした主題がとおっている点にあるのではないかと思います。
いや、読めて良かった。なんでハヤカワは未完にしたのかなあ?