ERB評論集 Criticsisms for ERB


内田庶「なみはずれた作家バローズ」

国土社ペルシダ王国の恐怖解説より

Feb 1983


 すでに読者のみなさんのなかには、ターザンが活躍する“ターザン・シリーズ”、『火星のプリンセス』など一連の“火星シリーズ”を読んだ人がいるかもしれません。前者はアフリカを舞台にしたもので、後者は火星を舞台にしたちがいはありますが、はらんばんじょう、手に汗をにぎる冒険小説であることに変わりはありません。この二十世紀初頭にえがかれたこれらのシリーズは、アメリカをはじめ全世界でいまだに人気があります。
 これらをえがいたのが、アメリカの作家エドガー・ライス・バローズなのです。このバローズは、その“ターザン・シリーズ”“火星シリーズ”のそれぞれ2冊目を書きあげた翌年の1913年2月に、一転して、新しいシリーズを書くことを思いたち、一気に完成したのが、ここに紹介した『ペルシダ王国の恐怖』なのです。このシリーズは、“地底世界シリーズ”といわれ、全部で7冊発表され、バローズのほかの二つのシリーズにおとらず読まれました。
 この“地底世界シリーズ”の特色は、その題名でもわかるように、冒険の舞台を地面の下である地底においていることです、つまり、地球はほんとうはがらんどうの球体で、その中心にもう一つ太陽があり、球体のからの内側にもう一つの世界、つまり地底世界があるという設定です。
 このドーナツ状の地球空洞説は、けっしてバローズがはじめて小説に使ったのではありません。『ほら吹き男爵の冒険』にもでてきますし、エドガー・アラン・ポーの小説にもそれを暗示するような場面があります。しかし、正面から小説の舞台にしたのは、SFの父ともいわれているヴェルヌで、アイスランドの噴火口をとおって地底世界に達するという有名な『地底旅行』がそれです。
 小説家だけでなく、科学者やハレー彗星を発見した天文学者ハレーなども、この地球空洞説を信じたぐらいですから、それをもとにSFができてもおかしくはないのですが、この『地底世界』には、もう一つ、ほかの小説にみられない特色があります。それは、人間が、自分よりもすぐれた爬虫類につかわれているという設定です。人間こそ万物の霊長という思いあがりに対して、ここではじめてそれ以上の知性をもった存在がいるにちがいないという、SFにとってはいまではおなじみになった考え方がうちだされたのです。その点でも、やはりバローズは、なみはずれた作家といえましょう。

ホームページへ | 語りあおう