Illustrated by Motoichiro Takebe
野上彰:訳/武部本一郎:画/野上彰:解説 実業之日本社/ターザン物語1 /1961.09.10初版/236頁
story/あらすじ
この本のはじめに
みなさん。ジャングルの王者、熱血児ターザンを、よくごぞんじですね。きっと映画やテレビでごらんになったことと思います。
このターザン物語全六冊では、そのターザンのスリルと冒険にみちた活躍が、アフリカのジャングルを舞台にして、つぎからつぎへと展開されます。
映画では見られなかった、類人猿に育てられた少年ターザンのおもしろいお話があとからあとから、息もつかせないほど、ぞくぞくとでてきます。
いまからやく五十年まえ、アメリカの作家バーローズによってあらわされた、正義の味方ターザンの物語を、さあ読んでみましょう。
一九六一年 八月
訳者 野上 彰
history/初出
Tarzan of the Apes,Oct.1912,All-story magazine
Tarzan of the Apes,1914,A.C.McClurg
comment/コメント
1961年というから、ターザンの紹介としては決して古いものではない。訳者の野上彰氏は川端康成に師事した文学者だそうだが、児童書の執筆や名作文学の児童版の翻訳なども行っており、ターザンの翻訳もこの流れに沿ったものかもしれない。
なお、野上氏は1956年に宝文館からターザンの訳書を数冊刊行しているようだが、伝えられるタイトルからは本書に始まるターザン叢書との関係はうかがえない。
なお、1960年代ということで情報量が多いのか、解説におけるバローズの紹介はかなり詳細で、後年のものと比較しても記述のぶれがない。作者名が「バーローズ」なのはまあ笑って見過ごすところか。
訳文は、いきなりハイティーンに成長したターザンから始まり、ジェーン一行が漂着してくる。出版社が「実業之日本社」であることもあり、児童書にしたくなかったのか、映画版ターザンを意識して大人のターザンに絞ったのか。ただし、ざっとしか読んではいないが、翻訳そのものは比較的原文に忠実なように思われる。
本書はカラーの箱があったはずだが、手に入らなかった。赤い表紙はつまらないので、挿絵から武部本一郎画伯の美青年版ターザンを紹介しておく。
なんと、創元推理文庫版『火星のプリンセス』に先んじること4年、本書が武部描く最初のバローズではないかと思われる。
ちなみに、ハヤカワ文庫版ターザンより10年早い。映画などで造型が確立していたターザンやジェーンはハヤカワ版と変わらないデザインだが、一部は大きく異なるので、興味深い。