ERB評論集 Criticsisms for ERB


R・A・ルポフ作/厚木淳訳・補遺

「バローズ研究書一覧」
Study on ERB

東京創元社刊
バルスーム バローズの火星幻想
巻末付録より

参考文献

■ブライアン・オールディス「十億年の宴」(東京創元社刊)
Aldiss,Brian W. Billion Year Spree : The True History of Science Fiction 1973

 従来刊行された中でおそらく最高のSF史である本書は、明快な一章をバローズに割いている。あまりにも多くの〈SF評論家〉とはちがって、オールディスはSFの内部のみならず外部の分野にも立脚し、SFの境界の外にある現代文化に関してバローズが果たした役割を洞察している。

■J・O・ベイリー「時間と空間の巡礼者たち」
Bailey,J.O. Pilgrims Through Space and Time 1947,1972

 SFの先駆的研究で、価値の点ではオールディスのそれに比肩する。ベイリーの手法は、作家たちの経歴に主眼を置くよりは、むしろ主題の発展のあとをたどることにあり、これに関連してSFの発達を理解する点で本書は絶大な価値がある。エドガー・ライス・バローズに、特に一九二九年の彼の小説「ターザンの世界ペルシダー」に大きな関心が払われている―この作品自体は、有名なジャングル冒険シリーズと空洞の地球をテーマにしたペルシダー・シリーズを〈接続〉するものである。

■ゲイブ・エソー「映画のターザン」
Essoe,Gabe Tarzan of the Movies 1968

 題名が示すように、本書は映画化されたバローズのジャングル小説をとりあげている。写真がたくさんはいったそれなりの労作ではあるが、バローズとその作品については、付随的な価値しかない。

■ロバート・W・フェントン「偉大なる活動家たち」
Fenton, Robert W. The Big Swingers: A Bibliography 1967

 ターザンは作者の投影であるという観点から、バローズとターザン双方の伝説を狙ったおもしろい試み。残念ながらフェントンは、この興味津々の着想を生かすことができなかった。

■ロン・グーラート「安直なスリル」
Goulart, Ron Cheap Thrills 1972

副題は「アメージング! スリリング! アストニッシング! なパルプ・フィクションの歴史」軽妙な筆致で書かれ、大衆文学のこの分野での発達を概観した有意義な研究書。一章が、バローズとその亜流に割かれている。

■ヘンリ・ハーディ・ハインズ「エドガー・ライス・バローズの著作目録」
Heins, Henry Hardy A Golden Anniversary Bibliography of Edgar Rice Burroughs 1962,1964

 バローズ書誌の決定版。ハインズはバローズの個々の作品が雑誌、新聞、単行本その他の版で刊行された完壁な歴史を調査するだけでなく、背景となる資料を豊富に調べ、バローズに関するすこぶる珍しい記事を復刻している。改訂増補版の刊行が望ましい。

■レイ・リーとヴァーネル・コリェル「ターザン映画の歴史」
Lee, Ray and Coriell, Vernell A Pictorial History of the Tarzan Movies 1966

 エソーのと同じような研究書。映画スタジオの広告宣伝の資料で構成されているが、エルモ・リンカーンやジョニー・ワイズミュラーなど、猿人に扮した俳優の記述が不足している。付随的な価値しかない。

■リチャード・ルポフ「エドガー・ライス・バローズ=冒険の大家」
Lupoff, Richard A. Edgar Rice Burroughs: Master of Adventure 1965, 1968, 1975

 本書(『バルスーム』)の著者による評論。分析的というよりは内容紹介に重点が置かれている。

■サム・モスコヴィッツ「無限の探究者」
Moskowitz, Sam Explorers of the Infinite: Shapers of Science Fiction 1963

 一章ごとにメアリ・ウルストーンクラフト(シェリー)やポオやヴェルヌなど、初期のSF作家の人と作品をとりあげている。バローズの章にはある程度の価値があるし、彼について初めて書かれた評論の一つ。

■サム・モスコヴィッツ「火星の月の下で」
Moskowitz, Sam Under the Moons of Mars 1970

 初期のパルプSFの歴史兼アンソロジーで、特にバローズに主眼を置き、題名も彼の処女作からとっている。歴史の部門では、初期のパルプ・マガジン業界についての貴重な情報を伝えてくれる。

■J・B・ポースト「ファンタジー地図」
Post J. B. An Atlas of Fantasy 1973

 この珍しい研究書には、フィクション、民間伝承、宗教、ゲームなどに由来する架空の国の地図が多数載っている。その主な部分はバローズの世界に関するもので、地図の大半はバローズ自身が描いており、バルスームの南北両半球の地図も含まれている。

■ドン・トンプスンとディック・ルポフ編「漫画本の本」
Thompson, Don and Lupoff, Dick(editors) The Comic-Book Book 1973,1975

 一章が、新聞や単行本で漫画化されたバローズの作品を扱っており、カミーユ・カゼドゥジュ・ジュニアの調査はよくゆきとどいている。おなじみのターザン漫画に加えて、バルスームとペルシダーの漫画が合まれている。漫画の原作に関する誤りは、再版で訂正されている。

■デイヴィッド・G・ヴァン・アーナム「バルスームとアムターの案内書」
Van Arnam, David G. The Reader's Guide to Barsoom and Amtor 1963

 ごく小部数しか刊行されなかった本書は、主にバローズの惑星間シリーズの背景を扱い、火星や金星の風景の特色をとらえて、それの位置づけと説明を行なっている。こうした形の〈高級な研究〉態度は〈ベイカー・ストリート・イレギュラーズ〉から借用したもので、それ自体おもしろいものではあっても、まじめな研究家や評論家には、ごくかぎられた価値しかない。

訳者付記

 ルポフが記した参考文献を補足する意味で、その後刊行されためぼしい研究書をあげておく。

■ジョン・フリント・ロイ編「バルスームの案内書」
Roy, Jon Flint (Compiled by) A Guide to Barsoom 1976

 バルスームの地理、動植物、人種、国家、度量衡、ゲーム、武器など、さまざまの項目ごとに単語をアルファベット順に配列して説明を加えた小辞典。ルポフのいう〈高級な研究〉書。

■アーウィン・ポージェス「エドガー・ライス・バローズ=ターザンを創った男」
Porges, Irwin Edgar Rice Burroughs: The Man Who Created Tarzan 1976

 ルポフが『バルスーム』の19頁で紹介している本。彼が本書を執筆当時は未刊であった。上下2巻1300頁に及ぶバローズ伝の決定版! 270枚の貴重な写真と、バローズの手紙がふんだんに引用されている。ふつう、これだけ膨大な研究書は、ヘミングウェイのようなノーベル賞級の作家でもめったに見られない。推してもって、バローズの根強い、熱狂的な人気を知るべきか!

comment/コメント

 日本語に訳された唯一のバローズ研究書『バルスーム』の巻末付録に著者(リチャード・A・ルポフ)が入れたものに訳者(厚木淳)が追記したものを採録した。バローズ研究書の一覧ということになる。本来ならば当然入るはずの『バルスーム』が入っていないのはそういったわけに依る。ちなみにフィリップ・ホセ・ファーマーの『ターザンは生きている』"Tarzan Alive"も抜けている。日本語で書かれたものは、残念ながらない。

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