Illustrated by Motoichiro Takebe
厚木淳:訳/武部本一郎:画/火星のチェス/作者紹介 東京創元社/創元推理文庫601-05 /1979.2.23初版/391頁
story/あらすじ
火星大元帥カーターの愛娘ターラが飛行艇で不時着した場所は、人類の進化の究極の形態である頭だけの人間と、彼らの乗物である胴体だけの人間が住む秘境であった。そこを命からがら脱出したターラは、ひきつづいて尚武の国マナトール、生きた戦士を駒がわりにして、生死を賭けてチェスを戦う国に捕らえられてしまった。頭だけのクモ人間とチェス人間、美貌のターラと彼女に愛を捧げる若き英雄ガハンが四つ巴になって展開する死闘と大冒険の連続。火星シリーズ全巻の中でも、質量ともに一、二をあらそう白眉編!
chapters/目次
前奏曲 ジョン・カーター地球にくる
火星のチェス・ジェッタン
character/登場人物
ジョン・カーター | 地球人。火星の大元帥 |
ターラ | ヘリウムの王女。カーターとソリスの娘。カーソリスの妹 |
ガハン | ガソールの王(ジェド)。放浪の戦士(パンサン)トゥラン |
ジョール・カントス | ヘリウム帝国の海軍士官。ターラの婚約者 |
ユシア | ターラの奴隷娘 |
ラン・オー | ガソール人。マナトールの奴隷娘 |
オ・タール | マナトールの皇帝(ジェダック) |
ユ・ソール | マナトールの第2都市マナトスの大王(ジェド) |
ハジャ | その妻。ガソールの王女 |
ア・コール | ジェッタンの塔の警備隊長(ドワール)。皇帝とハジャから生まれた息子 |
ユ・ドール | マナトールの第8中隊の隊長(ドワール) |
イ・ゴス | マナトールの老剥製師 |
ゲーク | 無胴体人間。バントゥーム族のカルディーン |
history/初出
Chessmen of Mars,Feb18-Apr.2.1922,All-Story Magazine
The Chessmen of Mars,1922,McClurg
comment/コメント
これもIOKAさんから小西宏訳版をもらうまではこれしか持っていなかった、という本。若干用語や章題が違うし、アイ・ゴスなんて固有名詞まで違う。小西版の登場人物欄ではうるさいくらいに書かれていた「赤色人」もすべて省略されている。バローズが非人間的な人類である緑色人や大白猿、植物人間(あるいは地底世界シリーズのマハール)などを好んで書いていたのはごく初期の頃だけで、あとはもっぱら生物学的には普通の人間(卵生であるバルスームの赤色人を「普通」と呼ぶかどうかは議論の余地もあるが、外観上は普通の人間だ)だけを動かしていく、その全貌が見えたからこその措置だろう。人物の深みや、敵としての怖さ不気味さを描こうとしたら人間的である必要があったのだと思う(怪獣でも一番怖いのは人型だというからね。たとえばジャミラ)。これはバローズが多くの秘境英雄小説を書き続けるうちに身につけた知恵であり、テクニックだったと考えられる。