佐藤高子:訳/中島靖侃:画/野田昌宏:解説 早川書房/ハヤカワSFシリーズ3192/1973.08.31初版/239頁
story/あらすじ
悪虐非道なコルサール人に捕らえられたペルシダー皇帝デヴィッド・イネスは、暗い地下牢に幽閉され、懊悩の日々を送っていた。イネスのこの不運な境遇を知った地上世界では、彼を救出すべく、大掛りな探検隊が組織された。隊長に選ばれたのは、なんと<ジャングルの王者>ターザンだった!
真紅の太陽を仰ぎ見るペルシダーの大平原を突っ切り、獰猛な野獣や野蛮人が棲息する原始林を掻き分け、ターザンの率いる探検隊は、一路、コルサールの国をめざして行軍をつづけた。そのとき、彼らの行く手に頑として立ちはだかった厖大な動物の集団――それはトリケラトプス、プテラノドン、プテロダクテイルなど、地上世界では数千年前に死滅した恐竜の群れだったのだ!
イネスの救出を目前にして、ターザンは後退を余儀なくされ、作戦を立て直した。はたして、電光石火の早業をもってなるターザンは、この恐るべきモンスターを撃退できるだろうか? そして、イネスの運命は如何に?* 地底世界ペルシダーに展開される、ターザンと恐竜の白熱の死闘!
history/初出
Tarzan at the Earth's Core,Sep.1929-Mar.1930,The Blue Book Magazine
Tarzan at the Earth's Core,1930,Metropolitan
chapters/目次
まえがき
characters/登場人物
デヴィッド・イネス | ペルシダーの皇帝 |
ジェイスン・グリドリー | イネスの友人 |
ターザン | ジャングルの王者 |
ムヴィロ | ターザンの部下 |
ズップナー | 飛行船の船長 |
フォン・ホルスト | 同船の航空士 |
ドルフ | |
ハインズ | 同船の操縦士 |
ロバート(ボブ)・ジョーンズ | 同船のコック |
タル-ガシュ | サゴスの戦士 |
ト-ヤット | |
ムワ・ロット | サゴスの酋長 |
ソア | ゾラムの戦士 |
ジャナ | ゾラムの赤い花 |
スクラク | フェリの戦士 |
オーヴァン | クロヴィの戦士 |
エイヴァン | オーヴァンの父 |
ユーラン | クロヴィの戦士 |
カーブ | |
ラジョ | コルサールの戦士 |
アブナー・ペリー | イネスの副官 |
comment/コメント
このターザンのペルシダー訪問をネタ切れゆえの苦し紛れの演出だとする評価があるとすればあらためてもらわなければならない。それだけ、この巻はシリーズ全体を見回したときに大きな意味を持っているからだ。ターザンとペルシダーの融合というアイディアがなかったら、ペルシダーというこの稀代の幻想冒険世界を活かす小説を書き続けることはできなかったのではないかとさえ思える。ペルシダーは2部作で行き詰まったと以前書いたが、これは2部作の評価を下げるものではない。地上人との関わり合いの部分をのぞけば、これほど優れた幻想冒険世界はそうはないとさえ言える。単に地上と切り離されて恐竜や原始人が生き延びているロストワールドではないのだ。永遠に沈まない太陽が輝く、常夏常昼の世界。ここでは時間さえその流れを止めてしまう……ペルシダー人たちは単なる原始人ではないのだ。コミュニティをつくり、騎士道精神のような一種の社会的通念さえ発達させている。惜しむらくはマハールが冒頭2部作でしかろくに活躍しないことだが、これは他の作品も含め、バローズ作品全般に言える傾向で、火星シリーズでも最初に登場する緑色人・植物人間・大白猿以外はまっ たくの人間型ばかりである。非人間型の知性体はSF的興味は増大させるが、バローズとしてはもっとも描きたかったのは人間だったから――人間にとってもっとも謎が多く、また自らを投影させて愉しめるのは「人間」であったから――人間型のキャラクターに集約されて、サゴス族さえ消えていくことになったのだ。これは惜しいことではあるが、作家性の問題だからやむを得ないことと見るべきだろう。