Cover Art by Motoichiro Takebe
小西宏:訳/武部本一郎:画/ 厚木淳:解説 東京創元社/創元推理文庫601-01/1965.10.08初版/296頁
story/あらすじ
南軍の騎兵大尉ジョン・カーターは、ある夜、アリゾナの洞窟から忽然として火星に飛来した。時まさに火星は戦乱戦国。地球とはけたはずれに発達した科学を背景に、四本腕の獰猛な緑色人、地球人そっくりの美しい赤色人などが、それぞれ、皇帝をいただいて戦争に明け暮れている。その渦中に飛び込んだ快男子ジョン・カーターは、縦横無尽の大活躍のはて、絶世の美女、火星のプリンセスと結ばれるが、そのとき二つの月をいただく火星は、いまや絶滅の危機に瀕していた……。SF史上不朽の傑作「火星シリーズ」の壮大な開幕を告げる序巻! 本邦初訳なる。
Chapters/目次
characters/登場人物
ジョン・カーター | 地球人。バージニア出身の南軍大尉。バローズの大叔父 |
タルス・タルカス | 緑色人。サーク族の副首領 |
デジャー・ソリス | 赤色人。絶世の美女。ヘリウムの皇帝タルドス・モルスの孫娘。王女 |
ソラ | 緑色人。侍女。ジョン・カーターの教育係となる |
サルコジャ | 緑色人。陰険な侍女 |
タル・ハジュス | 緑色人。サーク族の獰猛な皇帝(ジェダック) |
ロルクワス・プトメル | 緑色人。サーク族の王(ジェド) |
タルドス・モルス | 赤色人。ヘリウムの皇帝(ジェダック) |
モルス・カジャック | 赤色人。小ヘリウムの王(ジェド)。皇帝の息子。デジャー・ソリスの父 |
カントス・カン | 赤色人。へリウム海軍の士官(バドワール) |
ダク・コバ | 緑色人。凶暴なワフーン族の王(ジェド) |
サン・コシス | 赤色人。ゾダンガの皇帝(ジェダック) |
サブ・サン | 赤色人。ゾダンガの王子 |
ウーラ | 火星の犬(キャロット)。醜怪だがジョン・カーターの忠実な番犬 |
history/初出
Under the Moons of Mars, Feb.-July,1912 The All-Story
A Princess of Mars, 1917, A. C. McClurg
comment/コメント
記念すべきERBの処女作。そして、これが日本に紹介されたことで、日本のSF出版が大きく動き出したことはまちがいない。何よりも、武部本一郎の表紙がいい。東洋的なバタくささ、という評価がぴったりの可憐かつ豊満なデジャー・ソリスは、日本SFアートのひとつの到達点だろう。
物語は、正直なことをいうならばSFと呼ぶのには抵抗を感じる内容だ。いまだSFの概念が確立していなかった1911年という執筆時の年代を考えても、ERBの他の諸作と比較してさえ、SFというよりは異世界ファンタジーの要素が濃いといってよい。
この物語において、火星である必然性は、火星を意味する英語Marsがローマ神話の軍神マルスにつながるからという以上のものはない。追いつめられ、気を失ったとき、異世界にいることをすぐ理解するジョン・カーター。飛行艇や光線銃などの超科学(魔法的なイメージが強いが)と、戦うためだけに生きる緑色人、あくまで美しい赤色人……この異世界は、しかし大変に魅力的だ。SFとしての評価は、4巻以降ですればよい。ここにあるのは、ただ楽しめばよい浮揚感だ。
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