火星シリーズ1
Mars/Barsoom series 1


火星のプリンセス
A Princess of Mars(1912/1917)


Cover Art by Motoichiro Takebe

小西宏:訳/武部本一郎:画/ 厚木淳:解説  東京創元社/創元推理文庫601-01/1965.10.08初版/296頁

この本の表紙絵は権利者である故武部本一郎夫人・武部鈴江さんの許諾により転載しています

story/あらすじ

 南軍の騎兵大尉ジョン・カーターは、ある夜、アリゾナの洞窟から忽然として火星に飛来した。時まさに火星は戦乱戦国。地球とはけたはずれに発達した科学を背景に、四本腕の獰猛な緑色人、地球人そっくりの美しい赤色人などが、それぞれ、皇帝をいただいて戦争に明け暮れている。その渦中に飛び込んだ快男子ジョン・カーターは、縦横無尽の大活躍のはて、絶世の美女、火星のプリンセスと結ばれるが、そのとき二つの月をいただく火星は、いまや絶滅の危機に瀕していた……。SF史上不朽の傑作「火星シリーズ」の壮大な開幕を告げる序巻! 本邦初訳なる。

Chapters/目次

  1. アリゾナの丘にて On the Arizona Hills
  2. 死からよみがえる The Escape of the Dead
  3. 火星到着 My Advent on Mars
  4. 囚われの身 Aprisoner
  5. 虎口を脱して I Elude My Watch Dog
  6. 白猿との戦い A Fight that Won Friends
  7. 火星の育児 Child Raising on Mars
  8. 飛行船団現わる A Fair Capitive from the Sky
  9. 火星のことば I Learn the Language
  10. 族長に昇進 Champion and Chief
  11. 火星(バルスーム)の歴史 With Dejah Thoris
  12. 権力を持った捕虜 Aprisoner wuth Power
  13. 火星の恋 Love Making on Mars
  14. 死の決闘 A Duel to the Death
  15. ソラの身の上ばなし Sola Tells Me Her Story
  16. 逃亡の計画 We Plan Escape
  17. サークの皇帝(ジェダック) A Costly Recapture
  18. ワフーン族に囚われて Chained in Warhoon
  19. 闘技場の決闘 Battling in the Arena
  20. 大気製造工場 In the Atmosphere Factory
  21. ゾダンガ空中偵察隊 An Air Scout for Zodanga
  22. デジャー・ソリスとの再会 I Find Dejah
  23. ヘリウム目指して Lost In the Sky
  24. タルス・タルカス危うし Tars Tarkas Finds a Friend
  25. ゾダンガとの決戦 The Looting of Zodanga
  26. 殺戮から歓喜へ Through Carnage to Joy
  27. 火星の危機 From Joy to Death
  28. アリゾナの洞窟へ At the Arizona Cave

characters/登場人物

ジョン・カーター 地球人。バージニア出身の南軍大尉。バローズの大叔父
タルス・タルカス 緑色人。サーク族の副首領
デジャー・ソリス 赤色人。絶世の美女。ヘリウムの皇帝タルドス・モルスの孫娘。王女
ソラ 緑色人。侍女。ジョン・カーターの教育係となる
サルコジャ 緑色人。陰険な侍女
タル・ハジュス 緑色人。サーク族の獰猛な皇帝(ジェダック)
ロルクワス・プトメル 緑色人。サーク族の王(ジェド)
タルドス・モルス 赤色人。ヘリウムの皇帝(ジェダック)
モルス・カジャック 赤色人。小ヘリウムの王(ジェド)。皇帝の息子。デジャー・ソリスの父
カントス・カン 赤色人。へリウム海軍の士官(バドワール)
ダク・コバ 緑色人。凶暴なワフーン族の王(ジェド)
サン・コシス 赤色人。ゾダンガの皇帝(ジェダック)
サブ・サン 赤色人。ゾダンガの王子
ウーラ 火星の犬(キャロット)。醜怪だがジョン・カーターの忠実な番犬

history/初出

Under the Moons of Mars, Feb.-July,1912 The All-Story
A Princess of Mars, 1917, A. C. McClurg

comment/コメント

 記念すべきERBの処女作。そして、これが日本に紹介されたことで、日本のSF出版が大きく動き出したことはまちがいない。何よりも、武部本一郎の表紙がいい。東洋的なバタくささ、という評価がぴったりの可憐かつ豊満なデジャー・ソリスは、日本SFアートのひとつの到達点だろう。
 物語は、正直なことをいうならばSFと呼ぶのには抵抗を感じる内容だ。いまだSFの概念が確立していなかった1911年という執筆時の年代を考えても、ERBの他の諸作と比較してさえ、SFというよりは異世界ファンタジーの要素が濃いといってよい。
 この物語において、火星である必然性は、火星を意味する英語Marsがローマ神話の軍神マルスにつながるからという以上のものはない。追いつめられ、気を失ったとき、異世界にいることをすぐ理解するジョン・カーター。飛行艇や光線銃などの超科学(魔法的なイメージが強いが)と、戦うためだけに生きる緑色人、あくまで美しい赤色人……この異世界は、しかし大変に魅力的だ。SFとしての評価は、4巻以降ですればよい。ここにあるのは、ただ楽しめばよい浮揚感だ。

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