創元推理文庫「火星の交換頭脳」解説より
Nov.1966
E・R・バローズが、その処女作〈Under
the Moons of Mars〉後の〈A Princess of Mars〉を世に送った1912年から、1950年、死去の年までの38年間に発表した全作品の数は、正確にはとらえがたい。しかし、現在もっとも権威のあるものとされているH・H・ヘインズ編纂のクロノロジー(書誌年表)をもとにすると、109編ということになる。
その中で、「火星シリーズ」をはじめとするSF的な作品群を整理すると、次のようになる。
《火星シリーズ》全11巻
A Princess of Mars 1912年
邦題「火星のプリンセス」は、 Under the Moons of Mars の題名で1912年〈オール・ストーリー〉誌2月号より6回にわたって連載された処女作である。また、この作品は彼が Norman Bean というペンネームを用いたただ一つの作品である。しかも、彼は最初 Normal Bean (俗語で“ノーマルな頭脳”という意味)と暑名したのであるが、誤植のために「ノーマン」になってしまったという逸話がある。単行本はマクルーグより1917年に刊行され、シリーズ番号はM1、作品番号1である。これらはいずれもH・H・ヘインズの書誌年表分類資料による。
The Gods of Mars 1913年
邦題「火星の女神イサス」は、〈オール・ストーリー誌〉1913年1月号より5回にわたって連載され、単行本は1918年にマクルーグより刊行された。シリーズ番号はM2、作品番号3となっている。
The Warlord of Mars 1913年
邦題「火星の大元帥力ーター」は、同じく〈オール・ストーリー誌〉に1913年12月より1914年3月まで4回にわたって連載され、単行本は1919年にマクルーグより刊行された。シリーズ番号M3、作品番号7。
以上の3作は、すでに周知のことであるが、火星シリーズ全巻の中では三部作をなしている。すなわち、主人公ジョン・カーターの火星到着、デジャー・ソリスの誘拐、そして彼女の救出という本シリーズの中核となる作品群であるが、次の第4作〈Thuvia,
Maid of Mars〉が世に出るまでには、他のシリーズ(主として“ターザン・シリーズ”)などをふくめて、計14編におよぶ作品が書かれている。第5作〈Chessmen
of Mars〉が出るまでには都合、45編もの作品が刊行されているほどで散発的に作品が発表されている。
Thuvia Maid of Mars 1916年
邦題「火星の幻兵団」は、〈オール・ストーリー・ウィークリー〉の1916年4月8日号から22日号までの3回に分載され、1920年にマクルーグより単行本として刊行された。シリーズ番号M4、作品番号20。
Chessmen of Mars 1913年
邦題「火星のチェス人間」は、同じく〈オール・ストーリー・ウィークリー〉1922年2月18日号より4月1日号まで7回にわたって分載されたが、この作品の中に "Jetan"とよばれるチェスに似た火星独得のゲームが登場する。ゲームそのものはバローズの発明になるもので、ルールはこの巻の末尾に出ている(創元推理文庫「火星のチェス人間」参照のこと)。
しかし、この"Jetan"の発音についてはバローズの死後、ファンのあいだで大問題となり、1963年にいたって、H・H・ヘインズとバローズの長男ハルバート・バローズのあいだで交わされた書簡によって、「ジェッタン」と発音することが正しいとされている。ただし、ハルバート・バローズはその手紙の中で、ごく幼い頃、父親とこのゲームに興じた記憶があると書いているので、確かな発音はさだかではない。本作品のシリーズ番号M5、作品番号52。
The Master Mind of Mars 1927年
邦題「火星の交換頭脳」は、〈アメージング・ストーリーズ・アニュアル〉の1927年号(この年にしか刊行されなかった)に発表されたもので、最近、死去したSF画の第一人者F・R・パウルの手になる挿絵が10葉はいっており、バローズ・ファン垂涎の的となっている。現在、入手困難なことは言うまでもないが、1928年マクルーグから単行本として刊行された。シリーズ番号M6、作品番号61である。
A Fighting Man of Mars 1930年
邦題「火星の秘密兵器」は、〈ブルー・ブック誌〉1930年4月より6回にわたって連載され、その翌年メトロポリタン社から単行本として刊行された・シリーズ番号M7、作品番号68。
Sword of Mars 1934年
邦題「火星の透明人間」は、〈ブルー・ブック誌〉1934年11月号より6回にわたって連載され、翌1935年バローズ出版社から単行本として刊行された。シリーズ番号M8、作品番号77である。
The Synthetic Men for Mars 1939年
邦題「火星の合成人間」は、〈アーゴシー誌〉1939年1月7日号より2月11日号まで、計6回にわたって連載された。その翌年にはバローズ出版社より単行本として刊行された。シリーズ番号M9、作品番号86である。
Jhon Carter and the Giant of Mars 1941年
邦題「火星の巨人ジョーグ」は、〈アメージング・ストーリーズ誌〉の1941年1月号に掲載された中編で、1964年に「本星の骸骨人間」(Skelton Men of Jupiter)シリーズ番号M12とともにカナベラル・プレスからはじめて単行本となった。
この作品の文体には、他の火星シリーズの作品とくらべて、やや異なったところがあるため果たしてバローズ自身の作品かどうかという疑いの声がある。しかし、現在バローズ出版社の副社長の地位にある彼の長男、ハルバート・バローズは1963年の5月に、この事実を強く杏定した手紙をへインズ宛に送っている。シリーズ番号M10、作品番号92である。
Llana of Gathol 1949年
邦題「火星の古代帝国」は、次の4編からなっている。これを一冊にまとめたものが、シリーズ番号M11となる。ちなみにラナとはジョン・カーターの孫娘の名前で彼女を中心にして物語が展閉していくのであるが、1948年単行本となった際に、この標題がつけられたのである。
- The City of Mummies〈アメージング・ストーリーズ誌〉1941年3月号 作品番号93
- Black Pirates of Barsoom〈アメージング・ストーリーズ誌〉1941年6月号作品番号95
- Yellow Menot Mars〈アメージング・ストーリーズ誌〉1941年8月号 作品番号97
- Invisible Men of Mars〈アメージング・ストーリーズ誌〉1941年10月号 作品番号99
Skelton Men of Jupiter 1943年
これは、「火星の巨人ジョーグ」のところで記した作品であるが、1943年の〈アメージング誌〉2月号に発表されたものである。これも前記のシリーズ番号M10と同様、彼の作ではないのではないかという声もある。物語の内容はジョン・カーターとデジャー・ソリスが、火星を狙う一味によって木星に誘拐される話で、ふたりは再会できないままに終わっているので、おそらくバローズはその続きを書く意志があったのだろうが、ついにそのままになってしまった。彼の死後、有名なバローズ・ファンのW・ギルモアが彼の文体をそのままに踏襲して続編を書き好評を得た。シリーズ番号M12、作品番号106である。
一般的に「火星」もの計10編というとM10とM12をのぞいたものをいったが、つい最近、すでにご存じのことと思うが、現在バランタイン・ブックスから刊行されたので、慣例にしたがって今後「火星シリーズ」は全11巻ということになる。
《金星シリーズ》全5巻
バローズの創造した英雄の中で、ジョン・カーターとならび称されるのが金星を舞台に暴れまわる主人公カースン・ネーピアである。
物語の内容は、火星に向かって地球を出発した主人公が、ふとしたことから到着したのは金星であったということからくりひろげられる大冒険の数々である。
The Pirates of Venus 1932年
邦題「金星の海賊」は、〈アーゴシー誌〉1932年9月17日号より10月22日号まで計6編。1934年にバローズ出版社から単行本として刊行された。シリーズ番号V1、作品番号74である。
Lost on Venus 1933年
邦題「金星の死者の国」は、〈アーゴシー誌〉1933年3月4日号より4月15日号まで7回の連載である。1935年には単行本となった。これもV1「金星の海賊」と連作になっている。シリーズ番号V2、作品番号75。
Carson of Venus 1938年
邦題「金星の独裁者」は、〈アーゴシー誌〉1938年1月8日号より2月12日号までに計6編。1939年バローズ出版社より単行本として出版された。シリーズ番号V3。
Escape on Venus 1941年
邦題「金星の火の女神」は、次の4編からなっている。1946年バローズ出版社より単行本として刊行された際に、この標題がついた。各題名上の番号は作品番号である。シリーズ番号V4。
- 94 Slaves of the Fish Men〈ファンタスティック・アドベンチュア誌〉1941年3月号
- 96 Goddess of Fire〈ファンタスティック・アドベンチュア誌〉1941年7月号
- 100 The Living Dead〈ファンタスティック・アドベンチュア誌〉1941年11月号
- 104 War on Venus〈ファンタスティック・アドベンチュア誌〉1943年3月号
バローズは、もう1編の金星ものを意図して1941年1月からハワイの自宅で執筆していたが、第二次犬戦の勃発とともに中断してそのままになってしまっている。その一部
"The Wizard of Venus" 邦題「金星の魔法使」がカナベラル・プレスから刊行されたがシリーズ番号は与えられていない。
《ペルシダー・シリーズ》
バローズの創造力の振幅は、火星、金星、アフリカの密林だけではない。地底の大陸にまでも及んでいる。これが有名な〈ペルシダー〉シリーズと呼ばれているものである。地球の中心部は中空になっていて、この中心に「太陽」がある。(地球が形成されたとき、自転の影響で中空となるいっぽう、高熱の核は中心部に集中したものだという説明がなされている)だから、この世界には夜はないし、地平線ははるか彼方で徐々にせり上がっている。物語は鉱山主ディヴィット・イネスが技師アブナー・ペリーとともに自ら開発した地底探鉱車を運転中に、この地底の国へ出てしまう……
At the Earth's Core 1914年
邦題「地底の世界ペルシダー」は、〈オール・ストーリー・ウィークリー誌〉1914年4月4日号より25日号まで4回連載である。単行本は1913年にマクルーグより刊行された。作品番号11、シリーズ番号P1。
Pellucidar 1915年
邦題「翼竜の世界ペルシダー」は、〈オール・ストーリー・キャバリェ・ウィークリー誌〉1915年5月1日号より5月29日号まで(連載中に同誌は「オール・ストーリー誌」と改名)。作品番号14、シリーズ番号P2。
Tanar of Pellucidar 1929年
邦題「海賊の世界ペルシダー」は、〈ブルー・ブック誌〉1929年3月号より8月号まで6回の連載。翌年メトロポリタン社より単行本が刊行された。作品番号66、シリーズ番号P3。
Tarzan at the Earth's Core 1929年
邦題「ターザンの世界ベルシダー」は、前作にひきつづいて、〈ブルー・ブック誌〉に連載されたもので、地底の悪玉に捕われたディヴィッドの救出にターザンが活躍する物語である。ターザンのシリーズ番号T15にもあたる。1930年メトロポリタン社より単行本が刊行された。作品番号67、シリーズ番号P4。
Back to the Stone Age 1937年
邦題「石器の世界ペルシダー」は、〈Srven Worlds of Conquer〉の題名で1937年1月9日号より2月13日号まで6回の連載。作品番号81、シリーズ番号P5。
Land of Terror 1944年
邦題「恐怖の世界ペルシダー」は、ディヴィッド・イネス皇帝の冒険物語である。1944年バローズ出版社より単行本として発表された作品である。作品番号107、シリーズ番号P6。
Savage Pellucidar 1942年
邦題「美女の世界ペルシダー」は、次の4編からなっているが、発表された年月日は前作「恐怖の世界ペルシダー」よりも早い。この単行本は、1963年にカナベラル・プレスから刊行され翌年のヒューゴー賞を受賞した。シリーズ番号P7。
- The Return to Pellucidar〈アメージング・ストーリーズ誌〉1942年2月号作品番号102
- Men of the Bronze Age〈アメージング・ストーリーズ誌〉1942年3月号 作品番号103
- Tiger Girl〈アメージング・ストーリーズ誌〉1942年4月号 作品番号105
- Savage Pellucidar〈アメージング・ストーリーズ誌〉1963年11月号 作品番号109
(この作品が書かれたのは1944年)
そのほかに、バローズの諸作品でハードカバーの単行本としては1冊になっているために、シリーズものとして分類されていないものが、エースブックスなどで、雑誌に発表されたときと同様に分けて刊行された作品があるので付記しておく。
ハードカバーでは、この3編をまとめて "The Land that Time Forgot"
邦題「時間に忘れられた国」の題で刊行されている。この物語の内容は、絶海の孤島に残っている太古の世界に現代人がまぎれ込むロスト・ワールドものである。
また、マクルーグで1926年に出版された "Moon Maid" も、次の三つに別けて発表されている。
物語の内容は、月の地下都市の文明に地球人がまぎれこむのが発端となる地球の未来物語であるが、エース・ブックスでは第1作をそのままの題名(邦題「月のプリンセス」)で、また第2、第3作を第2作目の題名(邦題「月からの侵略」)で刊行している。
以上で、「ターザン・シリーズ」をのぞいて、E・R・バローズのシリーズものの一覧は終わるが、いずれ美しい装幀と十数葉の挿絵入りで創元推理文庫から刊行されるとのことである。いまからその日を心待ちにしている。